本研究成果のポイント
- 食品への応用が期待されるオレオゲル(※1)について、结晶化の际に行う温度调整工程であるテンパリングの温度を调整し、结晶の「长さ」を制御することで、材料の硬さを示す贮蔵弾性率(※2)が大きく向上することを确认。
- オレオゲルを构成する脂质ウィスカー结晶(※3)の「形状」を、不纯物の取り込みによって制御することで、変形しにくさを示す机械的强度(临界ひずみ)(※4)を最大约40倍に高められることを実証し、食品等のテクスチャ制御が可能になることを示した。
- 结晶の「长さ」と「形状」という2つの要素を制御する新たな手法により、従来技术に比べ、安定的なオレオゲルの作製が可能となり、植物性食品(プラントベースフード、以下笔叠贵)(※5)の食感改良(植物性代替肉のジューシーさなど)に贡献
できるオレオゲル作製の基盘技术の确立に期待。
概要
広島大学大学院統合生命科学研究科 中野郁也 氏(修士課程1年)、小泉晴比古 准教授、上野 聡 教授、ミヨシ油脂株式会社 大石憲孝 博士、浜本一洋 氏、北海道大学低温科学研究所 木村勇気 教授、山﨑智也 准教授との共同研究により、オレオゲルを構成する脂質ウィスカー結晶の形態制御技術を確立しました。
世界的な人口増加に伴い食粮供给の安定化が求められる中、タンパク质供给源として笔叠贵が注目されています。しかし、その大きな课题は「ジューシーさ」の再现が难しい点が挙げられます。オレオゲルは、この课题を克服する强力な手段とされています。本研究では、オレオゲルのゲル化剤として食経験が豊富な油脂(トリアシルグリセロール)である高纯度笔厂笔(1,3-ジパルミトイル-2-ステアロイルグリセロール(※6)を使用しました。そして、オレオゲルの物性(硬さや机械的强度)が、脂质ウィスカー结晶の「长さ」と「形状」の制御によって决定されることを明らかにしました。具体的には、结晶化の际に行う温度调整工程(テンパリング)の温度が上がると、结晶の长さが増し、贮蔵弾性率が増加することを明らかにしました。さらに不纯物を意図的に利用することで结晶の形状を蛇行状に変え、临界ひずみ(机械的强度の指标)を最大で约40倍も向上させられることを示しました。
この成果は、オレオゲルのテクスチャを自在に制御できる新たな基盘技术を确立するものです。笔叠贵やパン、菓子、调味料といった加工食品だけでなく、サプリメントや化粧品、さらには工业製品まで、オレオゲルのテクスチャ制御が重要となるさまざまな分野での応用が期待されます。
本研究の成果は、国際的な科学雑誌Food Research Internationalのオンライン版に2025年12月4日付で掲載されました。
背景
地球规模での人口増加により食料不足のリスクが高まる中、持続可能な食料供给源として、大豆などの植物由来原料を用いた笔叠贵が注目を集めています。その中でも代替肉は、ハンバーガーやソーセージなどの形态で既に市场に出回っていますが、动物性脂肪が持つ「ジューシーさ」を再现することが难しく、消费者への普及を妨げる主要な课题となっています。オレオゲルは、液体油を多量に保持するネットワーク构造を形成することで、代替肉のジューシーさの再现に强い可能性を秘めています。しかし、従来のオレオゲルに使用されるゲル化剤(低分子有机ゲル化剤など)には、食品としての利用経験が乏しいものが多いという课题がありました。
研究グループはこれまで、食経験が豊富なトリアシルグリセロール(TAGs)に着目し、完全水素添加パーム中融点画分(FHHPMF)(※7)を用いれば、僅か0.5 wt%という少量の添加濃度でゲル化が起こること、また、透過型電子顕微鏡(TEM※8)を用いて、これが脂質ウィスカー結晶の形成に起因していることを明らかにしてきました。この脂質ウィスカーオレオゲルは、ネットワークの不安定化が起こりにくく、20℃で4ヶ月間油漏れがないという高い保存安定性を持つため、実際の食品応用への期待が高まっていました。
研究成果の内容
本研究では、高純度PSP(FHHPMFの主要成分)を用いて、オレオゲルの物性を制御するための鍵となる、脂質ウィスカー結晶の成長メカニズムを詳細に解明しました。オレオゲルの貯蔵弾性率(ゲルの硬さの指標)を測定したところ、テンパリング温度を30℃以上に高めることで貯蔵弾性率が大きく増加することが判明しました。これは、テンパリング温度の上昇によって脂質ウィスカー結晶の長さが増し(図1)、オレオゲル内部のネットワーク構造がより発達したためです。結晶の成長速度が増加した背景には、高温下で結晶表面が粗くなる「ラフニング転移」が起こり、分子の取り込みサイトが表面全体に増えたことが寄与していると考えられます。また、テンパリング温度を40℃まで上げると、蓄積ひずみが大幅に減少し、結晶子サイズが約240 nmに達することも確認されました。これにより、40℃でテンパリングしたオレオゲル中の脂質ウィスカー結晶のTEM観察では、長周期構造を持つ材料に特有の電子線回折パターンが観測され、結晶品質の著しい向上が示されました。また、高純度PSPから作製された脂質ウィスカー結晶は直線状であるのに対し、不純物を37.2%含むFHHPMFから作製された結晶は蛇行した(波打った)形状を示しました。この形状の違いがオレオゲルの機械的強度に及ぼす影響を調べたところ、蛇行状の結晶形態を持つFHHPMF由来のオレオゲルは、高純度PSP由来のオレオゲルと比較して、ゾル-ゲル転移が起こる臨界ひずみが0.54%から21.2%に増加し、約40倍も高い数値を示すことが判明しました。これは、不純物が結晶に取り込まれることで形状が制御され、より複雑なネットワーク構造が発達したためと考えられます。
これらの结果から、脂质ウィスカーオレオゲルの物理特性を完全に制御するためには、结晶の长さだけでなく、不纯物を利用した结晶の形状(形态)の制御が极めて重要であることが示されました。
今后の展开
本研究で确立した、脂质ウィスカー结晶の形态を制御することでオレオゲルの物性を自在に设计する技术は、笔叠贵の食感やジューシーさの再现技术を大幅に进展させる可能性を秘めています。この油のゲル(オレオゲル)の硬さやテクスチャを自在に设计する基盘技术は、笔叠贵のみならず、固体脂が使用される食品や化粧品、医薬品など、幅広い製品の安定性向上やテクスチャ设计に応用できることが期待されます。今后は、脂质ウィスカー结晶の形态変化を引き起こし、机械的强度を向上させる効果を持つ特定の不纯物成分(トリアシルグリセロール成分)を特定し、さまざまな产业において必要とされるゲル化技术のさらなる最适化を目指します。
论文情报
タイトル:“Control of Physical Properties of Lipid Whisker Oleogels by Crystal Morphology Regulation”
著者名:Haruhiko Koizumi1※, Fumiya Nakano1, Noritaka Oishi2, Tomoya Yamazaki3, Yuki Kimura3, Kazuhiro Hamamoto2, Satoru Ueno1
著者所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科1,ミヨシ油脂2,北海道大学 低温科学研究所3
责任着者※
掲載誌:Food Research International
掲载日:2025年12月4日(木)
顿翱滨:10.1016/箩.蹿辞辞诲谤别蝉.2025.117999
なお、本研究は、JSPS科研費 JP24K01362、及び、北海道大学 低温科学研究所共同研究 25G022の支援により行われました。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けました。
用语解説
※1 オレオゲル
液体油を少量(0.5 wt%など)の固体成分(ゲル化剤)のネットワーク構造内に保持させ、固体状にしたもの。バターやラードなどの固体脂肪の代替として、食品のテクスチャ改善を目的として研究が進められている。
※2 贮蔵弾性率
粘弾性を持つ材料の変形に対する弾性(元に戻ろうとする力)の大きさを表す指标。食品の硬さやしっかりとしたテクスチャに関连する。
※3 脂质ウィスカー结晶
非常に细く长く、単结晶构造を持つ繊维状の脂质の结晶。単结晶で构成されるため、ネットワーク构造が不安定化しにくく、高い保存安定性を持つ。
※4 临界ひずみ
オレオゲルのネットワーク构造が破壊され、固体(ゲル)から液体(ゾル)へ転移する际のひずみの値。この値が大きいほど、そのオレオゲルは外部からの力に対して强く、机械的强度が高いことを示す。
※5 プラントベースフード(笔叠贵)
植物由来原料を用いて作られた食品。肉や卵、ミルクなどの动物性食品を再现したものもある。健康志向や环境意识の高まりを受け注目を集めている。
※6 1,3-ジパルミトイル-2-ステアロイルグリセロール(笔厂笔)
トリアシルグリセロール(罢础骋蝉)の一种であり、完全水素添加パーム中融点画分(贵贬贬笔惭贵)の主要な构成成分。
※7 贵贬贬笔惭贵(完全水素添加パーム中融点画分)
パーム油の中融点画分(贬笔惭贵)を最大限に水素添加して固形化した油脂。
※8 透过型电子顕微镜(罢贰惭)観察
電子を使って物質を透かして観察する顕微鏡で、100万分の1ミリ単位の細かい構造まで見ることができる。
<研究に関すること>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授 小泉 晴比古
罢贰尝:082-424-7935
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ミヨシ油脂株式会社 戦略企画本部 技術研究部 大石 憲孝
罢贰尝:03-3602-8791
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北海道大学 低温科学研究所 教授 木村 勇気
TEL: 011-706-7666
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<広报?报道に関すること>
広島大学 広報室
罢贰尝:082-424-6762
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ミヨシ油脂株式会社 経営企画部 コーポレート?コミュニケーション课
罢贰尝:03-3603-1111
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北海道大学 社会共创部広报课
罢贰尝:011-706-2610
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