愛媛大学大学院農学研究科 光延聖 教授、内島智貴大学院生(研究当時)は、理化学研究所、広島大学、日本原子力研究開発機構、九州大学、東京海洋大学との共同研究によって、これまで純粋培養が非常に難しかった鉄酸化細菌の培養効率を大幅に向上する方法「オーダーメイド培地法」を確立しました。本成果は、培養困難だった鉄酸化細菌の生理?生態の解明に向けた重要な一歩となります。また、鉄酸化細菌は地下水や河川水などに含まれる有害物質の浄化に利用される有用微生物であり、本成果は微生物利用型の環境修復(バイオレメディエーション)技術への応用が期待される成果です。
なお、本研究成果は、英国の科学雑誌「FEMS Microbiology Ecology」に掲載され、2025年5月5日に先行公開されました。
本研究成果のポイント
- 现场环境を再现した培地设计により难培养性の鉄酸化细菌(図1)の高効率培养に成功
→现场の主要元素浓度を可能な限り再现した“オーダーメイド培地法”を开発
- 培地の物理构造を工夫し、鉄と酸素の浓度をコントロールできる培地
→鉄酸化细菌のエネルギー基质である鉄と酸素浓度を调整できる培养法
- 本手法により、従来法に比べて最大100倍以上、集积能力を向上(図2)
→従来法より大幅に高い培养効率を実现し、新种の鉄酸化细菌分离に成功
- 本手法は复数の环境でも有効性を示し、汎用性の高い培养法
→鉄酸化细菌は地下水などの水浄化に用いられる有用微生物であり、高い环境浄化能をもつ鉄酸化细菌の探索など、今后幅広い応用が期待される
図1.细胞周囲に酸化鉄をまとった鉄酸化细菌、図2.集积効率の比较
成果概要
愛媛大学大学院農学研究科 光延聖教授、同じく農学研究科の内島智貴大学院生(研究当時)は、理化学研究所 加藤真悟上級研究員、広島大学 白石史人教授、日本原子力研究開発機構 徳永絋平研究員、九州大学 濱村奈津子教授、東京海洋大学 牧田寛子准教授らとの共同研究によって、これまで純粋培養が非常に難しかった鉄酸化細菌の培養効率を大幅に向上する方法を確立しました。
鉄をエネルギー源として生きる「鉄酸化细菌」(用语解説1)は、地下水や温泉、湿地など(図3)自然界のさまざまな场所に広く分布し、鉄の酸化反応を通じて地球规模の鉄循环に寄与しています。さらに、彼らが作り出す鉄酸化物(図1)は、ヒ素や铜などの有害元素を强く吸着?固定する能力を持つことから、环境浄化にも応用されています。しかし、このように重要な役割を担っているにもかかわらず、多くの鉄酸化细菌は実験室で纯粋培养できず、非常に培养が难しい微生物として知られてきました。実际、陆上环境の独立栄养性鉄酸化细菌の纯粋培养(用语解説2)报告は世界で8例程度にとどまっており、その生态解明や工学応用は进んでいません。
本研究チームでは、培地中の酸素、鉄、炭酸の濃度、pHや無機栄養塩のバランスが、鉄酸化細菌が生息する環境条件と大きくかけ離れていることが、培養がうまくいかない要因として着目しました。そこで、本研究チームは、環境水を丹念に分析し、現場水質の化学組成を厳密に再現した“オーダーメイド培地法”を考案しました。また酸素と鉄(II)がちょうど良い割合で共存する、鉄酸化細菌の増殖にとって最適な“安全領域”を培地内に設計しました(図4)。その結果、従来法と比べて最大100倍以上高い効率で集積?分離(用语解説3)ができる培養法を確立しました(図2)。この方法は複数の温泉や地下水環境でも高い有効性を示しており、鉄酸化細菌の研究を前進させるとともに、鉄酸化細菌の特性を活かした環境修復技術(バイオレメディエーション; 用语解説4)の開発にもつながることが期待されます。
本研究成果は、英国の科学雑誌「FEMS Microbiology Ecology」に掲載され、令和7年5月5日に先行公開されました。
成果详细
研究背景
鉄酸化细菌は、鉄の酸化反応をエネルギー源として利用する化学合成栄养微生物であり、自然界の鉄循环において中心的な役割を担っています。特に中性条件下で活动する「中性鉄酸化细菌」は、地下水、温泉、湿地(図3)のような环境に広く分布し、鉄の酸化物を生成する过程で、ヒ素や铜などの有害元素を强く吸着?固定する能力をもちます(図1)。そのため、これらの微生物は地球化学的な元素移动の制御や、バイオレメディエーション(微生物を用いた环境修復)技术の开発において极めて重要です。
しかしながら、中性鉄酸化细菌の多くは培养が非常に难しい微生物の代表格とされ、これまで実験室内での纯粋培养や集积培养が困难でした。そのため、これらの微生物の生理?代谢特性の解明や工学応用などは进んでいません。
研究内容
本研究では、自然环境中の鉄酸化细菌を高効率に集积?分离するための新たな「オーダーメイド培地アプローチ」を开発しました。调査地としたのは、岛根県の鉄を含む温泉(図3)です。この调査域ではGallionellaceae科に属する鉄酸化细菌が优占することが、遗伝子解析により明らかになっていました。まず、本研究チームは现地の温泉水の化学成分(栄养塩类、鉄、酸素、炭酸イオンの浓度、辫贬など)を详细に分析し、その成分を厳密に再现した培地(=オーダーメイド培地)を作成しました。培地中の物理构造にも工夫を施し、鉄と酸素がちょうど良い浓度で共存できる鉄酸化细菌のための「安全领域」を设けることで(図4)、现场环境に近い生育场所を培地内に再现しました(図5)。
その结果、従来法に比べて100倍以上の高い効率で鉄酸化细菌(Gallionellaceae科の细菌群)を选択的に集积することに成功しました(図2)。さらに、これまで未培养であった新种の鉄酸化细菌の分离にも成功しました。また、この培养法は他の温泉や地下水环境でも高い有効性を示すことがわかりました。
成果の波及性?今后の展望
今回开発されたオーダーメイド培地アプローチは、従来困难とされてきた难培养性鉄酸化细菌の集积?分离を行う上で、非常に有効であることが明らかになりました。今回の技术は、単に温泉という特定の场所に限定されるものではありません。现地环境に応じて培地の成分や构造を调整できる「オーダーメイド方式」であるため、各地の土壌、地下水、湿地、鉱山跡地など、多様な陆上环境に広く适用可能な汎用性の高い手法です。
また、本成果により、これまで未培养であった鉄酸化细菌群の生理学的?生态学的解析が大きく进展すると期待されます。さらに、鉄酸化细菌が作り出す鉄酸化物は、化学的な合成物と比べて大きな表面积をもつことがわかっており、ヒ素や铜などの有害元素を强力に吸着?固定します。そのため、本手法は、高性能な鉄酸化细菌の分离などバイオレメディエーションへの応用が期待されます。例えば、高い水浄化能をもつ鉄酸化细菌や高い金属耐性をもった鉄酸化细菌など、“高性能”な鉄酸化细菌分离に応用できるため、未解明な微生物机能の発见から新たな微生物资材の开発など、広范な分野での活用が见込まれます。
図4.従来培地とオーダーメイド培地の図解と実际の培地写真(右)
図5.従来培地とオーダーメイド培地の培地内の酸素と鉄(滨滨)浓度分布。灰色领域が现场浓度范囲を示しており、オーダーメイド培地の安全领域(鉄酸化细菌の生育场所)では现场浓度付近に调整できていることがわかる。
用语解説
1.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;鉄酸化细菌: 化学合成鉄酸化细菌は、次式のような酸化还元反応で、鉄(贵别2+)を酸素で酸化し、细胞増殖のためのエネルギーを得る独立栄养性の细菌(バクテリア)であり、主に辫贬中性から酸性の环境に生息します。
&苍产蝉辫; 贵别2+ + 0.25翱2 + 2.5贬2翱 → 贵别(翱贬)3↓ + 2H+
電子供与体 電子受容体 酸化鉄鉱物の沈殿
鉄酸化によって得たエネルギーを用いて二酸化炭素から有机物を合成し、自らの生育に利用します。代表的な属にはGallionella属やSideroxydans属などがいます。土壌、堆积物、地下水などの环境に広く生息しており、鉄の地球化学的循环に重要な役割を果たしています。酸化によって表面积の大きな酸化鉄鉱物を生成するため、鉄や重金属の固定化を通じて鉱山排水や地下水の环境浄化にも応用される有用微生物です。一方で、多くの鉄酸化细菌は実験室で纯粋培养できず、非常に培养が难しい微生物として分类されてきました。
2.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;纯粋培养: 环境に多様に存在する微生物群の中から、标的の1种类の微生物のみを分离?増殖させる技术です。これにより、遗伝子解析ではわからない各微生物の生理?代谢?生态の特徴を详细に调べられます。纯粋培养は通常、选択培地を用いて行われ、得られた集积培地から希釈を繰り返すことで达成されます。环境微生物のほとんどは未培养(培养条件がわかっていない状态)であり、纯粋培养は今なお微生物の代谢研究や工学応用において重要な研究アプローチです。
3.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;集积?分离: 多様な微生物群から标的とする微生物を浓缩?选抜し、最终的に分离するプロセスです。まず、特定の基质や条件(例:炭素源、电子供与体、辫贬、温度など)を用いて目的微生物の増殖を促す「集积」培养を行い、これにより标的微生物が他の微生物より优势になります。その后、选択培地への希釈?涂抹植菌などを用いて、1种の微生物を「分离」培养し、纯粋培养を目指します。难培养性微生物の场合、育つ条件が不明であるため、彼らの要求栄养を推测しながら数多くの培养条件を试す必要があります。そのため、集积は単なる作业ではなく、标的微生物の生理?代谢を想像しながら试行错误を繰り返す研究活动です。
4.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;バイオレメディエーション: 微生物の代谢活动を利用して环境中の汚染物质を分解?无害化?固定化する技术です。主に土壌、地下水、排水に含まれる有机汚染物质や无机汚染物质(重金属、ヒ素など)を対象とします。微生物はそれらを炭素源や电子供与体?受容体として利用するなかで、分解して毒性の低い物质に変换、または微生物が作った鉱物などの吸着媒に汚染物质を固定化します。微生物の能力を活用するため、环境负荷が少なく持続可能な修復技术として注目されています。
论文情报
掲載紙:FEMS Microbiology Ecology
D O I :https://doi.org/10.1093/femsec/fiaf051
題 名:Custom-made medium approach for effective enrichment and isolation of chemolithotrophic iron-oxidizing bacteria (邦訳)独立栄養性鉄酸化細菌の高効率培養を可能とするカスタムメイド培地アプローチ
著 者:Tomoki Uchijima, Shingo Kato, Kazuya Tanimoto, Fumito Shiraishi, Natsuko Hamamura, Kohei Tokunaga, Hiroko Makita, Momoko Kondo, Moriya Ohkuma, Satoshi Mitsunobu* (*責任著者)
研究サポート
?日本学术振兴会科学研究费补助金
課題番号:19H03087, 19H04302, 21K19871, 23K27042, 23H00534.
【お问い合わせ先】
(研究に関すること)
愛媛大学 大学院 農学研究科 生物環境学専攻 教授 光延 聖(みつのぶ さとし)
E-mail:mitsunobu.satoshi.dy*ehime-u.ac.jp TEL: 089-946-9843
(プレスリリースに関すること)
(主) 愛媛大学 総務部広報課
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*蝉迟耻.别丑颈尘别-耻.补肠.箩辫 罢贰尝:089-927-9022
理化学研究所 広报部报道担当
贰-尘补颈濒:别虫-辫谤别蝉蝉*尘濒.谤颈办别苍.箩辫 罢贰尝:050-3495-0247
日本原子力研究開発機構 総務部報道課
贰-尘补颈濒:迟辞办测辞-丑辞耻诲辞耻办补*箩补别补.驳辞.箩辫 罢贰尝:070-1460-5723
広岛大学 広报室
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫 罢贰尝:082-424-3749
九州大学 広报课
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*箩颈尘耻.办测耻蝉丑耻-耻.补肠.箩辫 罢贰尝:092-802-2130
(*は半角@に置き换えてください)