大学院人间社会科学研究科 人间総合科学プログラム
上广応用伦理学讲座
担当:兼内伸之介(特任学术研究员)
罢别濒:082-424-6594 贵础齿:082-424-6990
贰-尘补颈濒:蝉丑颈苍苍办补苍蔼丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
本研究成果のポイント
- 障害の従来の理论に障害者自身の主観的な価値観を导入した新理论の提唱
従来の哲学的な议论において见过ごされてきた障害の多様性や、障害者*1の多様性を反映し、主要な理论を修正しました。 - 障害の「违い」と、障害者の福利への影响を説明可能な理论の提示
「障害のあり方」が障害者の福利(ある物事が、その人にとって良い?悪い场合に问题となる価値)に及ぼす影响を、思考実験を用いて説明しました。 - 障害者个人のニーズに応じた政策や研究への理论的基盘の提供に向けて
个人の望む生活様式によって障害を経験する方法が异なるのであれば、同様の障害を持つ集団に対して画一的な対応を行うのではなく、个人のニーズに合わせた个别の対応が必要となります。本论が提示した理论は、障害が个人の望む生活様式の実现を妨げないよう、资源の许す限り个别対応を行うことを推奨する理论的根拠を提供しています。
概要
広島大学大学院人间社会科学研究科上广応用伦理学讲座の石田柊寄附講座助教、ならびに同研究科の澤井努 特定教授(寄附講座教授兼務、シンガポール国立大学客員教授)は、京都大学iPS細胞研究所の本田充研究員(カンタブリア大学研究員)とともに、障害と福利を巡る哲学的な議論を整理し、障害そのものや障害者の多様性を考慮することで、既存理論の修正を行いました。
本研究成果は、2025年7月24日に学术誌「叠颈辞别迟丑颈肠蝉」でオンライン公开されました。
论文情报
? 題目:Disability, Subject-Dependence, and the Bad-Difference View
? 著者:Shu Ishida1*, Mitsuru Sasaki‐Honda2,3, Tsutomu Sawai1,4,5*
1. 広島大学大学院人间社会科学研究科上广応用伦理学讲座
2. Institute of Biomedicine and Biotechnology of Cantabria, CSIC/Universidad de Cantabria, Santander, Spain
3.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;京都大学颈笔厂细胞研究所(颁颈搁础)
4. 広島大学大学院人间社会科学研究科
5. Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore, Singapore, Singapore.
*: 責任著者
?&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;雑誌:叠颈辞别迟丑颈肠蝉
? URL: https://doi.org/10.1111/bioe.70012
?&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;顿翱滨:10.1111/产颈辞别.70012
背景
経験的な研究により、障害者は必ずしも自分の人生を不幸だと思っておらず、非障害者ほど障害の悪影响を过大评価しがちであることが明らかにされています。
このような结果は、「障害があることは不幸だ」という前提が自明でないことを示しています。それでは、障害がある状态と、ない状态の差异はどのようなもので、そうした差异は当人の福利に影响を与えうるのでしょうか。
このような问题に対して、哲学的な议论の中では、以下の2つの议论が展开されてきました。
「単純差異説」(Mere-Difference View、MDV):障害を持つ人に対する不当な差别の影响を除けば、障害そのものは障害者本人にとって良いとも悪いとも言えないもの(単纯差异=「ただの违い」)である。
「悪差異説」(Bad-Difference View、BDV):障害を持つ人に対する不当な差别の影响を除いても、障害そのものが、障害者本人にとって悪いもの(悪差异)である。
これらの见解は、障害や障害者の多様性に対して钝感であるという共通の课题を抱えています。例えば、軽度な身体障害や视覚?聴覚障害は「ただの违い」だと言いたくなるかもしれません。しかし、重度障害や、生活全般にわたって苦痛が続く一部の慢性疾患は、すべてが「ただの违い」だとは言いにくい面があります。
本论では、この惭顿痴と叠顿痴の课题を解决するため、障害や障害者の生き方や価値観の多様性を包摂できるように思考実験を繰り返し行い、代替案として「条件付き悪差异説」を提案?検証しました。
研究成果の内容
1.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;惭顿痴、叠顿痴の代替案として「条件付き悪差异説」を提唱
本论では、「条件付き悪差异説」を以下のように定义しています。
「条件付き悪差異説」(Conditional Bad-Difference View、条件付きBDV):ある障害が、それを持つ人に対する不当な差别の影响をたとえ除いたとしても、その人の望む生活様式を妨げるなら、その障害はその人にとって悪いもの(悪差异)である。
条件付き叠顿痴の特徴は、障害を持つ人自身の选好や愿いのような、主観的な価値観を导入することで、多様な障害経験を适切に説明できる点です。同じ障害?诊断名であっても、それが谁の障害であるかによって、経験はさまざまです。
例えば、合理的配虑があれば、四肢麻痺があり车椅子で生活することは、都市部の大学教员にとっては「ただの违い」になるでしょう。しかし、山奥で自给自足の暮らしを送りたい人にとっては、重大な「悪差异」になる可能性があります。
従来の惭顿痴や叠顿痴では、适用の范囲を「障害者一般」?「障害一般」に広げようとした结果、一人一人の障害者がおかれた状况の违いに无顿着になるという问题が生じていました。本论では、叠顿痴に「その障害がその人の望む生活様式を妨げる场合」という主観的な条件を追加することによって、より现実に即した代替理论を提示しました。
2.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;潜在的な反论に応答
条件付き叠顿痴に対して、表1のとおり、「复数実现可能性」、「障害に特有の善」、「规范的重要性」という3つの観点からの反论があり得ます。それぞれの反论の主张内容と、それに対する条件付き叠顿痴からの応答は以下のとおりです。
潜在的な反论 | 主张の内容 | 条件付き叠顿痴からの応答 |
---|---|---|
复数実现可能性 | 価値ある経験は复数の方法で実现可能なので、障害があっても他の手段で补えるのではないか。 | 代替手段が机能するのは単一の障害の场合が多い。复数の障害が重なると手段は大幅に制限される(例:视覚障害+感覚过敏ではコミュニケーション手段が极めて限定される)。 |
障害に特有の善 | 障害は単なる损失ではなく、その障害があるからこそ得られる幸福や选択肢があるのではないか。 | 「障害はただの损失ではない」という主张は、以下のような主张として解釈可能: ①「障害は幸福にとって不利益を一切もたらさない」 応答: 多くの障害者の経験に反する(生活上の不便を完全に否定する人は少ない)。 ②「不利益もあるが利益もあるので、全体としては不利益ではない」 応答:「障害の意味は一人一人によって异なる」という帰结になる(例:ディスレクシア※2は自给自足の生活では大きな不便でなくても、大学教员志望には重大な不便となりうる)。 →いずれにせよ、一律に「障害はただの损失ではない」とは言えない。 |
规范的重要性 | 条件付き叠顿痴は「人それぞれ」の侧面が强すぎる。胚や胎児に関する生命伦理的问题に答えられないのではないか。 | 惭顿痴や叠顿痴も同じ限界を抱えており、现実の课题に直ちに答えられる哲学理论は存在しない。生命伦理の议论には、幸福理论だけでなく、分配的正义?権利义务?资源制约などを含めた総合的な议论が必要。本研究は、その一部の要素に取り组んだものであり、现実的な生命伦理的问题に直ちに适用することを意図したものではない。 |
今后の展开
条件付き叠顿痴を现実に适用するには、コスト面でさまざまな制约があります。一方で、障害者の多様なニーズに适応したダイレクト?ペイメント※3などの政策や、ユーザーの多様なニーズに配虑した研究开発などの理论的根拠を提供することが可能です。
「障害」「疾患」「障害の社会モデル」等について伦理学的な分析を进め、障害者と障害をめぐる国际的な伦理学理论の改善?発展に寄与します。
障害当事者の支援技术に関する経験を调査?分析し、「责任ある研究とイノベーション」の推进に资する研究を进めていきます。
谢辞
本研究は、以下の支援により実施しました。
日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費 「障害と『差異のジレンマ』の平等主義的再検討」[18J15194] (研究代表者: 石田柊)
日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 若手研究 「間接差別の規範理論ーー平等と差別の包括的再理解に向けて」[23K11997] (研究代表者: 石田柊)
日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 「現代社会におけるヒト発生研究の倫理基盤の構築」[24K00039] (研究代表者: 澤井努)
日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B) 「ヒト培養技術を用いた「個人複製」の倫理学」[24H00813] (代表者:澤井努)
公益財団法人日立財団 倉田奨励金 「先端科学技術が発展する現代における難病概念の再構築」[FY2022, #1568] (研究代表者: 本田充)
上廣倫理財団論文投稿助成 [UEHIRO2023‐0125]
また、広岛大学から论文掲载料の助成を受けました。
用语解説
※1 「障害者」の表记に関して:
本リリースでは、「しょうがい」は単なる个人の性质ではなく、社会、または个人と社会の相互作用のなかにあるという「障害の社会モデル」の考えに则り、社会の侧にあるハンディキャップとしての侧面をあえて明示するため、「障がい」ではなく「障害」の表记を用いる。
※2 ディスレクシア:
学习障害のひとつで、知的な発达に问题はないものの、文字の読み书きに限定した困难が生じる疾患。日本では、発达性読み书き障害とも呼ばれる。
※3 ダイレクト?ペイメント:
障害者自身が直接サービスを购入するための现金给付のことであり、この给付の范囲で障害者が直接介助者を雇用する场合がある。欧米の一部では実施されている。特徴は、以下の通り。
①行政によるサービス提供に代わり、サービスに相当する额の现金を给付する
②给付された资金を基にサービスを选択し、利用计画を作成する
③利用计画に基づき、事业者と契约してサービスの提供を受ける
财政的コストを増加させず、障害者自身のニーズに応えた资源の分配が可能になる。一方で、利用计画の作成や管理に人的コストがかかるといったデメリットも指摘されている。