広岛大学大学院 医系科学研究科 薬効解析科学研究室
教授 森冈 徳光(もりおか のりみつ)
罢贰尝:082-257-5310 贵础齿:082-257-5314
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本研究成果のポイント
膝の软骨细胞で炎症が悪化する原因の一つとして、细胞内の「ミトコンドリア」が伤つくこと、そしてその影响で働きが活発になる「ヘキソキナーゼ」という酵素が関わっていることを発见しました。この酵素の働きを抑えると炎症が和らぐことも确认され、现在根本的な治疗薬がない変形性膝関节症に対して、将来的な新しい治疗法の开発が期待されています。
概要
広島大学大学院医系科学研究科の森岡徳光(もりおかのりみつ)教授、元成初寧(もとなりはつね)(大学院生; 当時)、中村庸輝(なかむらようき)助教、中島一恵(なかしまかずえ)助教らの研究グループは、ラット膝関節の軟骨細胞(※1)を用いて、炎症が悪化する仕組みを調べました。その結果、細胞内の「ミトコンドリア」が傷つくと、炎症を引き起こす物質が増えることがわかりました。そして、その過程に「ヘキソキナーゼ」という酵素が深く関わっており、ヘキソキナーゼを抑制すると炎症反応が緩和されることも見出しました。
この研究结果は、変形性膝関节症に苦しむ多くの患者さんを救う新たな治疗薬开発の一助となることが期待されます。
本研究成果は、令和7年8月28日(日本時間)、国際科学誌「International Immunopharmacology」(オンライン版)に公開されました。
また、本研究は、広岛大学から论文掲载料の助成を受けています。
発表论文
着 者
Hatsune Motonari1, Ayumu Hayashi1, Yuka Tanaka1, Yoki Nakamura1, Kazue Hisaoka-Nakashima1, Norimitsu Morioka1*
1:広岛大学大学院医系科学研究科薬効解析科学
* :Corresponding author(責任著者)
论文题目
Mitochondrial dysfunction exacerbates inflammatory responses via the JNK/p38-AP-1 pathway in primary cultured chondrocytes
掲载雑誌
International Immunopharmacology(Q1), 2025, Impact factor=4.7
顿翱滨番号
doi: 10.1016/j.intimp.2025.115433
研究の背景
変形性膝関节症は、膝の软骨がすり减って炎症を起こし、痛みや肿れ、関节の动きにくさを引き起こす病気です。加齢や遗伝、関节构造の异常、筋力低下といった要因と、肥満やスポーツなどで生じた関节の物理的な障害、酷使といった関节に直接负荷を加える要因が合わさって発症します。特に高齢女性で発症しやすく、日本では60歳以上の女性で约50%、80歳以上では约80%以上が罹患し、患者数は2,500万人以上と推定されています。この病気は、慢性的な関节の痛みを引き起こすため、日常の动きに支障をきたし、患者の蚕翱尝を着しく低下させます。これらの痛みを和らげるために、ロキソニンのような痛み止めなどが使用されますが、効果が十分ではないことも多く、また长期间の使用により副作用が生じるリスクも増加します。さらに现在、使用されている薬では根本的な治疗は望めません。よって、変形性膝関节症に対する新たな治疗薬?治疗法の确立が望まれています。
以前より私たちの研究グループは、软骨细胞の机能异常が変形性膝関节症の発症に重要であることに注目をして研究を続けてきており、软骨细胞での炎症反応を抑制すると痛みや软骨损伤の进行を抑制できることを明らかにしてきました。また、细胞の働きに必要なエネルギーを产生する细胞内の小器官であるミトコンドリア(※2)に、加齢やストレスにより障害が生じると、炎症反応が悪化することも见出していましたが、その具体的なメカニズムについては解明されていませんでした。
そこで本研究では、ラットの膝の软骨细胞を用いて、炎症反応の悪化メカニズムについて、ミトコンドリア障害との関わりを调べました。
研究成果の内容
研究では、ラットの膝から取り出した软骨细胞に炎症を引き起こす刺激を与え、さらにミトコンドリアを伤つける薬を加えました。その结果、炎症を引き起こす物质(惭惭笔3や罢狈贵)の量が増えることがわかりました。このとき、ミトコンドリアの障害によって「ヘキソキナーゼ」という酵素が活性化されていることが确认されました。そして、この酵素の働きを抑える薬を使うと、炎症が抑えられることも明らかになりました。
今后の展开
本研究结果から、ヘキソキナーゼが変形性膝関节症に対する治疗薬の新たなターゲットとなることが期待されます(図2)。
今后は、変形性膝関节症モデル动物を用いて、ヘキソキナーゼ阻害薬の治疗効果を确かめるとともに、软骨细胞でのミトコンドリア障害がヘキソキナーゼを诱导するメカニズムについても研究を进めていく予定です。
図1 培养软骨细胞での软骨破壊物质と痛み诱発物质の产生に対するヘキソキナーゼ阻害薬の効果
培養軟骨細胞に対する炎症刺激(interleukin-1β処置)に加えて、ミトコンドリア障害を生じさせる(rotenone処置)と、軟骨破壊物質(matrix metalloproteinase3 (MMP3))と痛み誘発物質(tumor necrosis factor (TNF))の遺伝子発現が増加しました。この反応はヘキソキナーゼ阻害薬(2-deoxy-glucose)を処置すると抑制されました。
図2 本研究の概要
変形性膝関節症では軟骨細胞での炎症反応(軟骨破壊物質や痛み誘発物質の産生)が生じています。ラット膝由来の培養軟骨細胞にミトコンドリア障害を起こすと、炎症反応が増悪されました。この反応にはヘキソキナーゼが重要な働きをしており、その働きを阻害薬で抑制すると炎症反応の増悪が抑制されました。(Part of this figure was created with BioRender.com.)
用语解説
(※1)软骨细胞
软骨组织を构成する唯一の细胞で、変形性膝関节症では炎症が生じ、破壊されていると考えられています。
(※2)ミトコンドリア
ほとんど全ての真核生物の细胞の中に存在し、细胞の働きに必要なエネルギーを产生する细胞内小器官です。

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