本研究成果のポイント
- ココアバターがもつさまざまな结晶の构造(=结晶多形)を、电気の力(外部电场)によってコントロールし、口どけの良い结晶を生成することに成功しました。
- 口どけの良さにつながる痴型结晶の生成には、外部电场を加えるとともに、适切な周波数を加えることが重要です。
- 口どけの良い(微细な结晶の)美味しいチョコレート製造への応用に期待されます。
概要
広島大学大学院统合生命科学研究科 小泉 晴比古 准教授、上野 聡 教授、羽倉 義雄 教授、高輝度光科学研究センター 関口 博史 主幹研究員(チームリーダー)、青山 光輝 主幹技師の共同研究グループは、チョコレートの美味しさを左右する重要な要素であるココアバターの結晶多形(※1)について、外から電気を加える外部電場を適用することで、美味しい口どけをもたらすⅤ型という結晶への変化(多形転移)を促進できることを明らかにしました。
本研究では、ココアバターのⅡ型からⅤ型への多形転移頻度が、適用する外部電場の周波数によって変化することを確認しました。特に、10 kHz(キロヘルツ)の周波数で約2.85倍の多形転移の促進効果が得られる一方、周波数が高くなるにつれて効果は減少し、5 MHz(メガヘルツ)で消失することを見出しました。この現象は、結晶と結晶の境目にあたる「界面」に形成される「電気二重層(※2)」の挙動に起因すると考えられ、電気二重層の安定性が結晶多形の促進に重要であることが示唆されました。この成果は、外部電場を利用してココアバターの結晶構造を調整することが、よりきめ細かいⅤ型結晶の生成を促進し、結果として優れた口どけを持つチョコレート製造に貢献する可能性を示しています。
本研究成果はFood Research Internationalのオンライン版に2025年5月27日付で掲載されました。
背景
チョコレートの美味しさ、特に「口どけの良さ」は、ココアバターに含まれる結晶の状態(結晶多形)によって決まります。ココアバターには Ⅰ型から Ⅵ型 まで6種類の結晶多形がありますが、最も望ましいとされるのが、人間の口の温度(33℃)に近い温度で融解するⅤ型です。美味しいチョコレートを作るためには、このⅤ型をいかに正確に生成?制御するかが非常に重要です。加えて、Ⅴ型の結晶サイズを細かくすることも、より良い舌触りや食感を実現するために不可欠です。
これまで、金属や酸化物といった无机物质やタンパク质といった有机物质の结晶化において、応力场(力の加え方)、磁场、电场、电磁场などの外からの影响(外场)を応用して制御する试みが行われてきました。中でも电场は、比较的弱い强度でも効果が得られるため、大型の装置を必要とせず结晶化を制御できるという利点があります。本研究は、この电场の利点に着目し、ココアバターの结晶多形制御、特にⅡ型からⅤ型への多形転移の促进を目指しました。
研究成果の内容
本研究では、ココアバターのⅡ型からⅤ型への多形転移に対する外部電場の効果を詳細に調べました。ココアバターに3000 V/cmの外部電場を1週間加え、多形転移頻度を調査しました。ココアバターの結晶多形の特定には、兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL40XUを使用しました。非常に細くて強いX線を使ってココアバターの結晶の形や微細な構造を詳しく調べるための実験装置です。まず、光学顕微鏡像で示されている白い球状の晶出物が、ココアバターのⅤ型であることが、SPring-8のBL40XUを用いて、明らかとなりました。そして、このココアバターのⅤ型である白い球状の晶出物を観察すると、外部電場(3000 V/cm)を加えることで、Ⅱ型からⅤ型への多形転移頻度が促進することが確認されました。また今回のケースでは、ココアバターのⅤ型の誘電率がⅡ型の誘電率よりも小さいために電場によって多形転移頻度が促進したと熱力学的に解釈できます。実際にココアバターのⅡ型とⅤ型の誘電率を測定し、熱力学的な解析と整合することも示されました。
さらに、多形転移の促進効果は、加える電場の周波数に依存し、10 kHzの周波数では外部電場を加えなかった時と比べ、約2.85倍まで増加しました。しかし、周波数が1 MHz以上になると効果は著しく減少し、5 MHzでは効果がほぼ消失しました。ココアバターの誘電率の周波数依存性の測定において、1 MHzあたりで誘電率の減少(誘電緩和)(※3)が観察されました。このことから、1 MHz以上の周波数では、結晶界面で形成されていた電気二重層が不安定になったり、消失したりすると考えられます。
つまり、ココアバターの多形転移を効果的に制御するためには、単に電場をかけるだけでなく、電気二重層の形成と安定性を考慮し、適切な周波数で電場を加えることが重要であることが分かりました。この技術を用いることで、口どけの良いⅤ型の微細な結晶を効率的に生成することが可能になります 。
図1:ココアバターのⅡ型からⅤ型へ多形転移している様子
电场なしでは、多くの结晶がⅣ型にとどまり、Ⅴ型への転移は限定的。
电场ありでは、Ⅴ型が増加し多形転移频度が促进されている。
今后の展开
本研究で得られた、外部电场によるココアバターのⅡ型からⅤ型への多形転移の促进の知见は、きめ细かいⅤ型结晶の生成を制御し、より优れた口どけを持つチョコレート製造技术の発展に贡献することが期待されます。特に、电気二重层の安定性を考虑した周波数や电场条件の最适化が、更なる结晶多形制御の键となります。また、外部电场がココアバターの粘度を低下させ、低脂肪化にも贡献する可能性が报告されています。チョコレートの原料は、カカオマスや砂糖といった粉体を加えることで粘度が高くなり、製造时にパイプの詰まりなどの问题が生じやすくなります。通常はココアバターを追加して粘度を下げる(追油)ことで対応していますが、外部电场によって追油せずに粘度を低下させることができれば、ココアバターの使用量を削减でき、低脂肪チョコレートの製造が可能になります。このように本技术を応用して、美味しさと健康を両立させた新しいチョコレート製品の开発にも贡献できると考えています。
论文情报
タイトル:“Control of Polymorphic Transition for Cocoa Butter under Applied External Electric Field”
著者名:Haruhiko Koizumi1※, Yuka Nakao1, Hiroshi Sekiguchi2, Koki Aoyama2, Yoshio Hagura1, Satoru Ueno1
著者所属:広島大学 大学院统合生命科学研究科1,高辉度光科学研究センター 2
责任着者※
掲載誌:Food Research International
掲载日:2025年5月27日(火)
顿翱滨:10.1016/箩.蹿辞辞诲谤别蝉.2025.116368
また、本研究は、広岛大学から论文掲载料の助成を受けました。
用语解説
※1 结晶多形
同じ化学组成を持つ物质が、分子の配列が异なる结晶构造をとる现象。ココアバターでは、Ⅰ型からⅥ型の6つの结晶多形が存在し、Ⅰ型が最も热力学的に不安定で、Ⅵ型が热力学的に最安定となっている。
※2 电気二重层
物质の表面にプラスの电気が溜まると、その近くにマイナスの电気が引き寄せられてできる薄い二重构造。これが表面の电気の状态を安定させ、外部からの电気の影响を调节する。本研究では、ココアバターの结晶界面に形成される电荷の分布を指す。
※3 诱电缓和
电场をかけた际に物质内の电荷の再配置が遅れる现象。特定の周波数で诱电率が変化し、エネルギー吸収が起こる。
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学 大学院统合生命科学研究科 准教授 小泉 晴比古(こいずみ はるひこ)
罢别濒:082-424-7935
贰-尘补颈濒:丑-办辞颈锄耻尘颈蔼丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター
主幹研究員 関口 博史(せきぐち ひろし)
罢别濒:0791-58-0802
贰-尘补颈濒:蝉别办颈驳耻肠丑颈蔼蝉辫谤颈苍驳8.辞谤.箩辫
<広报?报道に関すること>
広島大学 広報室
罢贰尝:082-424-6762
贰-尘补颈濒:办辞丑辞蔼辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
高辉度光科学研究センター(闯础厂搁滨)利用推进部 普及情报课
罢贰尝:0791-58-2785
贰-尘补颈濒:尘补颈濒迟辞:办辞耻丑辞耻蔼蝉辫谤颈苍驳8.辞谤.箩辫