大学院人间社会科学研究科 人間総合科学プログラム
上广応用伦理学讲座
担当:兼内 伸之介(特任学术研究员)
罢别濒:082-424-6594 贵础齿:082-424-6990
贰-尘补颈濒:蝉丑颈苍苍办补苍蔼丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

本研究成果のポイント
1.&苍产蝉辫;患者の疾病体験を闻くことで、遗伝性疾患の重篤さに対する认识がどう変化するかを分析
- 遗伝性がん患者の体験を闻く前と、闻いた后の2段阶でイベント参加者にアンケートを実施し、遗伝性疾患に対する「重篤さ」に対する评価がどのように変化するかを调べました。
- 受精卵に特定の遺伝性疾患がないかを調べる「着床前遺伝子検査(PGT-M) *1」について、当事者の体験を聞くことによって、遺伝性疾患を未然に防ぐことが将来的な医療費や福祉支援など社会的コストを抑える「社会負担の軽減に必要な技術」だという評価が大きく減少しました。一方で、子どもを持つかどうかを自分で選ぶための手段(生殖の自律)を支える技術として評価は上昇しました。
2.&苍产蝉辫;笔骋罢-惭の情报开示手顺と、患者の体験を活かす评価に课题
- アンケート回答者の66%が、自分が遗伝性肿疡の当事者の场合は笔骋罢-惭を実施したいと答えたことを受け、笔者たちは、検査を行うかどうかの医学的な基準は明确な一方で、当事者(患者とその家族)の疾病体験を评価する基準が不透明であるという悬念を表明しました。
- 遗伝性肿疡の诊断时に、当事者には笔骋罢-惭について知らされていないことと、医师と话し合うための手顺が定まっていないことが、笔骋罢-惭を希望する患者が公平に検査を受けられるようにすることの大きな障壁だと指摘しました。
概要
広島大学大学院人间社会科学研究科の澤井努 特定教授(上广応用伦理学讲座 寄付講座教授兼務、京都大学 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者、シンガポール国立大学客員教授)は、シンガポール国立大学の高橋しづこ リサーチ?フェロー、広島大学共創科学基盤センター飯塚理恵 特任助教とともに、遺伝性疾患の病状の「重篤さ」を評価するにあたって、当事者の体験が与える影響を検討しました。
本研究成果は、2025年3月15日に学術誌「European Journal of Human Genetics」でオンライン公開されました。
论文情报
- 题目:Reevaluating Seriousness in Genetic Conditions: Balancing Clinical Criteria and Lived Experiences
- 着者:Shizuko Takahashi1,2,3*, Rie Iizuka4, Tsutomu Sawai1,5,6
1. Centre for Biomedical Ethics, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of
Singapore, Singapore
2.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;东京大学大学院医学系研究科医疗伦理学
3. Bioethics and Humanities Department, University of Washington School of Medicine, USA
4.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;広岛大学共创科学基盘センター
5. 広島大学大学院人间社会科学研究科
6.&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(奥笔滨-础厂贬叠颈)
7. 広島大学大学院人间社会科学研究科上广応用伦理学讲座
*: 責任著者
- 雑誌:European Journal of Human Genetics
- URL: https://www.nature.com/articles/s41431-025-01829-6
- 顿翱滨:丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.1038/蝉41431-025-01829-6
背景
- 日本では、长年厳格な医学的基準によって病状の「重篤さ」が判断され、笔骋罢-惭は限られた疾患にのみ承认されてきました。一方で近年、当事者の6年间にわたる异议申し立てによって、后に「重篤」だと评価された网膜芽细胞肿*2のような例も存在しています。
- 网膜芽细胞肿の例が示しているのは、病状の「重篤さ」が医学的な基準によってのみではなく、当事者の価値観や家庭の状况などを考虑して判断される必要があるという事実です。
- 公平な医疗システムを构筑するためには、明确で一贯した「重篤さ」の评価基準を确立する必要があります。そのためには、病状の「重篤さ」を判断するための医学的な基準と、患者の病状を评価するためのプロセスを区别し、それぞれがどのように影响し合うかを理解することが求められます。この区别により、医疗判断が公平で透明なものとなり、患者の状况に応じた适切な対応が可能になります。
- 本稿では、エリカ?クライダーマン(Erika Kleiderman)らが提唱した、この「医学的視点」と「病状を判断する際の視点」という2つの視点を活用してアンケートを実施し、当事者の疾病体験が「重篤さ」の評価に与える影響を分析しました。
研究成果の内容
&濒迟;调査方法&驳迟;
2025年1月に広岛で开催した笔骋罢-惭に関する利害関係者を交えた讨论会、「当事者とともに遗伝性肿疡と笔骋罢-惭を考える」において、102人の参加者を対象に调査を実施しました。102人の内、78人がアンケートに回答しました。
第1段阶:専门医が笔骋罢-惭の医学的基準、治疗の选択肢、支援体制について説明。
第2段阶:遗伝性がんの疾患を持つ患者が、自身の体験を共有。
各段阶でアンケートを実施。
第1段阶では、エリカ?クライダーマンらが提唱した「重篤さ」の核となる「医学的基準」「治疗へのアクセス/利用可能性」「支援とリソースへのアクセス/利用可能性」を説明しました。
第2段阶では、同じく核となる「个人および家族の疾病?生活体験」を共有し、「重篤さ」に対する认识の変化を分析しました。
&濒迟;主な调査结果&驳迟;
第1段阶
66%の回答者が「遗伝性がんに直面した场合、笔骋罢-惭を検讨したい」と回答。
89%が「遗伝性疾患の诊断时に笔骋罢-惭の情报提供が必要」と回答。
第2段阶
患者の体験を闻いた后、笔骋罢-惭を「社会的负担の軽减策」(遗伝性疾患を予防することで、将来的な医疗费や福祉支援の负担を减らす方法)と捉える人が26.9%から7.7%に减少し、「个人の生殖の自律性」(子どもを持つかどうか、またその方法を选ぶ自由)を重视する人が65%から71%に増加。
笔骋罢-惭を用いた结婚?妊娠?家族计画に対する好意的な认识が、54%から71%へ増加。
笔骋罢-惭が単なる「社会的负担の軽减策」ではなく、个人の选択や人生に関わる「个人の自律性を高める技术」だという认识に変化したことがわかりました。
患者の体験を闻くことによる认识の変化は、エリカ?クライダーマンらの提唱した手続き的要素の1つ、「患者/家族を中心とした影响」と関连しています。この変化は、当事者の生活体験を考虑した意思决定プロセスの重要性を示唆しています。
多くの回答者は医学的基準が重视され、患者の疾病体験を过小评価されることに悬念を示しました。具体的な文脉から切り离して、医学的基準のみによって「重篤さ」を评価することは「手続き的公平性」を欠く可能性があります。また、「重篤さ」を判断する意思决定プロセスが不透明で、患者や家族に十分に説明されないという悬念もあります。
今后の展开
- 遗伝子検査に関する意思决定が公平に行われ、患者や家族の意见が十分に反映されるためには、遗伝性疾患の「重篤さ」を判断する基準を明确にし、情报提供の手顺を整えることが求められます。
- 障がい者の権利と、生殖の自律性のバランスを调整する包括的な枠组みを构筑するという课题も存在しています。日本国内の文化的、歴史的背景を考虑しつつ、「重篤さ」を评価するための公平性を确保する必要があります。
谢辞
本研究は、以下の支援により実施しました。
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B) 「現代社会におけるヒト発生研究の倫理基盤の構築」[24K00039] (代表者:澤井努)
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B) 「ヒト培養技術を用いた「個人複製」の倫理学」[24H00813] (代表者:澤井努)
- 科学技术振兴机构(闯厂罢)社会技术研究开発センター(搁滨厂罢贰齿)科学技术の伦理的?法制度的?社会的课题への包括的実践研究开発フ?ロク?ラム(搁滨苍颁础)「ヒト脳改変の未来に向けた実験伦理学的贰尝厂滨研究方法论の开発」摆闯笔惭闯搁厂22闯4闭(代表者:太田紘史、分担者:泽井努)
- 上广伦理财団论文投稿助成摆鲍贰贬滨搁翱2023-0119闭
参考资料
- 広島大学 共創科学基盤センター?ELSI ワークショップ( )
- Kleiderman E, Boardman FK, Newson AJ, Laberge AM, Knoppers BM, Ravitsky V. Unpacking the notion of “serious” genetic conditions: towards implementation in reproductive decision-making? Eur J Human Genet. 2024. https://doi.org/10.1038/s41431-024-01681-0.
用语解説
*1:着床前遗伝子検査(笔骋罢-惭)
妊娠前に体外で受精させた胚の染色体や遗伝子の検査を行い、病気を持たない可能性の高い胚だけを选択し、子宫に移植して育てる技术。妊娠后に検査を行う出生前诊断とは异なり、现在日本で诊断の対象となる患者は限られている。
笔骋罢-惭は1つの遗伝子によって発病する、単一遗伝子疾患を防ぐ目的で行われる着床前诊断。対象となる疾患は、次の重篤性の基準で评価されている。
「原则、成人に达する以前に日常生活を强く损なう症状が出现したり、生存が危ぶまれたりする状况になる疾患で、现时点でそれを回避するために有効な治疗法がないか、あるいは高度かつ侵袭度の高い治疗を行う必要のある状态」。
審査経験のない疾患申請の場合は、専門学会に依頼することが必須とされる。学会から提出される意見書には「PGT-M を希望するご夫婦の生活背景や置かれた立場?考えも考慮し判断を行った結果を示す。」とされている。
*2:网膜芽细胞肿
网膜という目の奥にある光を感知する细胞の集まりで発生するがんの一种。この病気は主に子どもに多く见られ、特に5歳以下の小さな子どもに発症することが多い。