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ギナンジャール氏講演要旨 2015.9.2

グローバル化した世界における日本の大学の展望と课题*
ギナンジャール?カルタサスミタ(Ginandjar Kartasasmita)

はじめに

まず、広岛大学経営协议会の一员として広岛にお招きいただきましたことに心から感谢申し上げます。大変光栄に思っております私は、以前に6年ほど日本に住んでいたことがあります。この30年の间には、毎年のように日本を访れ多くの都市や地域を旅行してきました。年によっては、1度ならず访れたこともあります。けれども、意外なことに広岛に参りましたのは何と今回が初めてです。决まりの悪い思いをしておりますが、それにしましても、インドネシアにいる昔からの日本の友人の一人として広岛に来ることができて、大変喜んでおります。
 

歴史的なことに触れますと、広岛市と広岛市民の皆さんは70年前に原子爆弾という人类が経験したことのない惨祸に见舞われました。この悲剧が、人类に大変な苦しみをもたらした、もう一つの悲剧である第二次世界大戦を终结させることになりました。これらの辛い経験から、人类は学びました。纷争を解决するために、なぜ戦争という手段をとってはならないのかということ、そして、いかなる理由があろうとも纷争の际に、核兵器のような大量破壊兵器や化学?生物兵器を决して使用してはならないということを歴史から学びました。

もちろん、私はこのような话をするために、お招きいただいたのではありません。世界における日本の大学の役割や立场について见解を述べるように言われております。
 

私に与えられたこのテーマをどのようにお话すれば良いでしょうか。「外国人よりも日本人の方がその答えをよく知っている」とおっしゃる方もあるかもしれません。私は外国において高等教育に関わった経験があります。学生、フェロー、客员研究员、あるいは教授といった様々な立场で関わってきました。しかし、国际教育というテーマについて、私は専门家ではありません。
 

けれども、一般人としての立场から、私が日本の高等教育をどのように见ているか、また、日本の大学が世界で果たすことのできる役割について、展望と课题をお话ししたいと思います。

日本の大学についての私の考え

今日の日本の大学は、国际的な基準も採り入れつつ、日本独自の高等教育を构筑し运営してきた150年(あるいは最低でも60年)の努力のたまものです。米国の占领军は日本の高等教育制度全体を改革?刷新しようと精力的に取り组みました。しかし、日本の大学は、戦前にしっかりと构筑された日本独自の高等教育制度を何とか维持することができました。
 

日本の大学では、主として教授陣にはほとんどすべての科目内容について、これまで日本语での教育、研究を認めてきました。教科書は、日本语で書かれ、印刷されたものが使用されてきました。私が学生だったころもそうだったのですが、今でも日本では、元の言語で書かれた外国語の教科書が授業で使用されることはないと思います。ほとんどが日本语に翻訳されています。日本の大学は、主に日本の学生を対象とし続けています。ほとんどの日本の大学院生は、英語で会話することが得意ではありませんし、英語で書かれた本を読むこともめったにありません。日本の学生は優秀です。様々な分野に秀でています。しかし、まさに日本のやり方なのです。日本人で英語を話す人はたいてい、外国で何年か大学院生として過ごしたことのある人か、海外の日本企業で働いたことのある人です。
 

日本の大学が他国の大学と比べて、劣っていると言っているのではありません。それどころか、日本の大学は世界でも极めて高い竞争力を持ち、トップクラスに位置しています。日本の大学を卒业した人は、すぐれた医者、技术者、経済の専门家になります。
 

日本の教育は、长い间にわたってこの环境で栄えてきました。日本の教育制度を観察している多くの学者にとって重要な问いは、日本の高等教育の现在の构造が、ますますグローバル化する世界に适合しているのかどうかということです。
 

一つ例を挙げましょう。1979年にハーバード大学の研究者であるエズラ?ヴォーゲル(Ezra Vogel)は、「ジャパン?アズ?ナンバーワン―アメリカへの教訓」(Japan as Number One: Lessons for America)という著書を出版しました。その中で彼は、世界で最もダイナミックな先進工業国である日本には「強い経済と結束力のある社会」があると述べました。 しかし、2010年、ヴォーゲルは違った姿の日本を見ています。「日本には非常にたくさんの良いものがあると思っていた。犯罪率は低く、中学における人々の教育レベルは高い。また会社に対する忠誠心も強く、官僚は力を尽くしていた。学ぶところがたくさんあった。しかし、今の日本は違っている」(2010年のジャパンタイムズからの引用)
 

実际、いろいろなことが本当にたくさん変わってしまいました。长い间、日本は世界第2位の経済大国でした。产业や技术では最先端のものもあり、パイオニアでさえありました。任天堂やウォークマンといった名前は世界の隅々にまで知れ渡っています。トヨタは世界一の自动车メーカーです。
 

しかし、2010年に中国に世界第2位の座を夺われました。韩国は技术面で日本に急速に追い付こうとしており、手ごわいライバルとなっています。サムスンという名前は电子机器のブランドとして日本のブランドよりも世界ではよく知られています。インドネシアでは、中国が新干线建设の契约を得るために日本と竞っています。大口の契约を胜ち取る多くの日本の会社は、ヒュンダイやダイウといった韩国の下请け业者を使っています。なぜなら、韩国の业者は日本の业者と同じレベルで仕事をこなし、なおかつコストはずっと低くて済むからです

将来への期待

私たちは今、大きな科学的进歩と产业革命の真っただ中にいます。科学的な発见は実际、日々报告されています。技术面では飞跃的な进歩を遂げ、新しい产业を生み出しています。私たちの社会的、経済的な生活は今や根本的に新しくなり、生活への期待も非常に変化してきています。
 

将来を予测し、备えをすることはいよいよ难しくなってきています。大学には今后、いっそう重要な役割が求められています。竞争が激化しグローバル化する世界に対応できるよう学生を训练すること、科学や技术の飞跃的进歩やイノベーションに贡献し、雇用を创出するために产业の新たな可能性を开くことなどです。
 

大学自身も大きな変化の途上にあります。一般的な傾向を見ると、総合大学は「特徴」のある大学に移行しつつあります。ハーバード大学は、医学の分野で優れていますが、工学の分野では必ずしもそうではありません。マサチューセッツ工科大学(MIT)が工学の分野では優れています。シンガポールのナンヤン理工大学(NTU)はこの5年にわたって上位100位内にランキングされていますが、これは工学に重点を置いているからです。しかし、もっと重要なことは、これらの大学が各分野の間にまたがる領域の研究や教育を奨励しているということです。 NTUには今、メディア、デザイン、情報のスクールがあります。これらのスクールにおいて、学部生および大学院生は先進の情報技術、人文科学、特にデザインや映画製作、ゲームなどを学んでいます。
 

大学入学の方針には類似点が見られます。米国で最も優れた大学は、標準的なテストで優秀であるというだけでは、学部に入ることはできません。特別な何か、例えば芸術的な才能のある人を入学させます。入学に際しては方針が決まっているのです。入学希望者は、これまでの学習分野である機械工学、数学、物理学等だけではなく、芸術、経済学、経営学、その他にも社会科学や人文科学等を幅広く学んでいなければなりません。 理由は簡単です。科学や技術の飛躍的進歩だけでは、新たな産業を生み出すことはできないからです。より良いデザインを作るためには芸術家が必要です。事業をするためには経営のプロが必要です。社会の大きな流れをつかむためには社会科学者が必要です。
 

日本の国立大学は、科学や工学の优れた学部があることで有名です。しかし、日本の大学は新しい分野、特に科学や工学の分野と、人文科学や社会科学の分野とを桥渡しをする领域にはあまり热心でないと见る専门家もいます。大学が竞争力を维持するためには、この点を変えなければなりません。広岛大学にも、グローバルな竞争へと向かうこの动きに加わってほしいと思います。

世界に通用する大学にするには

正直な所、大学が国内で优れているだけではなく、世界に通用するレベルにするにはどうすればよいかという质问に対してどう答えて良いか分かりません。しかし、优れた学生を世界中から呼び寄せるような何かが重要であると思いますし、皆さんの大学で学んだ学生が、希望する职业に就けるということも重要だと思います。こういった条件のそろった大学が世界的な竞争力を持つのだと思います。
 

政策研究大学院大学(骋搁滨笔厂)学长である白石隆教授によれば、日本には、世界的な竞争力を持ち、先に述べた诸课题に対応するための戦略を採っているような総合大学はないということです。白石教授はご自身の母校である东京大学を例に挙げて次のように述べておられます。「引用度で测られる世界的な竞争力という点では、世界でも23位あるいは31位(情报源により异なる)にランクされており、アジアでは1位ですが、これは、优れた戦略を见つけ出したからでもなく、世界中からトップクラスの学生を集めたからでもありません。学生を训练する素晴らしい方法を提供しているからでもなく、教授阵に研究を奨励しているからでもありません。ただ、日本人の中から最高レベルの优秀な学生を何とか集めることができているからなのです。その他の大学もすべて东京大学と同じパターンをまねています」。白石教授は、トップクラスの日本の大学にとって最大の问题は、それらの大学が现在のやり方のままで良いと思っていること、どの大学も际立った特徴を示すような研究や教育を行う学部や分野がなく类似しており、同じような动きをする点だと批判しています。骋搁滨笔厂は学生の3分の2(66.40%)、教员の15%が外国人であるという点で、卓越していると言えるでしょう。

世界における日本の大学

日本政府が日本の高等教育をグローバル化しようと計画していることは承知しております。2014年にはフラッグシッププログラムの一つとして「グローバル30」というイニシアティブがまとめられました。30万人の外国人留学生を日本の大学へ招こうというものです。現在の留学生の人数は13万5千人ですから、約2倍になります。「グローバル30」は、「日本语の習得を前提条件としない」としています。学位の取得が可能な英語でのプログラムを多くの日本の大学が提供するようになってきたからです。このため、「グローバル30」に参加する大学では、外国人留学生が日本の大学で学ぶ際の妨げとなっていたものの一つである言语の问题が解消されると期待されています。

外国人留学生の受け入れが多い国

日本は、外国人学生が留学を希望する国の一つとなっていますが、约13年间、外国人留学生の割合は3%前后にとどまっています。一方、中国は国际教育の现场では新参ですが、外国人留学生の割合は、8%に増加しています。中国はすべての学位プログラムを英语で提供することにより、外国人学生を集めることに成功しました。また、急成长する中国経済につながる职を得るために、韩国、日本をはじめとするアジアの国々からも多くの学生が中国に来て勉强し、中国语で勉强しているようです。
 

実際、日本にいる外国人留学生の3分の2は北東アジア出身で、中国51.2%、韓国9%、次いで台湾が3.4%となっています。残りの大部分は東南アジア諸国出身者が占めています。この数字から見ると、日本の大学は「国際化」ではなく「アジア化」していると言えます。先に申し上げましたように、圧倒的多数の授業が日本语で行われているということが、日本で学ぶにあたっての障壁となっています。しかし、北東アジアの学生は、漢字になじみがあるため、言語の障壁は他の地域の学生ほどではありません。また、外国人留学生を受け入れる日本の大学のほとんどは、大学院およびその活動、それも科学と技術に重点を置いています。しかし、インドネシアからの留学生はもっと多様な分野を学びに来ています。多くの学生が医学、経済学、公共政策を学ぶために日本にやってきます。
 

この10年で、日本に来るインドネシア人留学生の人数は、ほぼ2倍の割合で増加しました。留学生のほとんどは、私费留学ですが、ごく一部の学生はインドネシア政府か日本政府から奨学金を受けています。これは良い兆しです。しかし、半世纪以上前に(55年前です)私を日本に留学させてくれた赔偿プログラムのような拡大した奨学金制度によって、もっと多くのインドネシアの学生たちが日本で学んでほしいと个人的に愿っています。このことについて、福田康夫元首相をはじめとして日本政府の方々とお话ししましたが、その际、日本で学ぶインドネシア人留学生の人数が拡大することを、私は「ビッグ?バン」という言叶で表现いたしました。広岛大学に1,060人いる留学生のうち、インドネシア人学生は、中国人学生の570人に次いで第2位で、81人です。相当な人数のインドネシア人学生がすでに在籍しているのです。

展望

日本はすばらしい国です。日本の皆さんは気さくで穏やかです。长い歴史と伝统を持ち、おいしい食べ物と美しい景観に恵まれ、东西の文化が调和し、融合している非常にユニークな国です。
 

日本での留学は、外国人学生を集めている他の主要な国々よりも比较的费用が少なくて済みます。

世界で非常に有名な大学と日本のトップクラスの大学に在籍する留学生の人数を调べると、日本の大学には外国人留学生の受け入れ人数を増やす余地がまだまだあるということが分かります。

欧米の大学

ランク 大学名 外国人留学生の割合(%)
1 カリフォルニア工科大学 25
2 ハーバード大学 20
3 ケンブリッジ大学 24.6

日本の大学

ランク 大学名 外国人留学生の割合(%)
1 东京大学 14.29
2 京都大学 13.53
3 大阪大学 14.18
4 东北大学 13.97
5 名古屋大学 12.16
6 东京医科歯科大学 13.61
7 九州大学 16.11

ことに広岛大学では、外国人留学生の割合はわずか6%です。トップクラスの大学をずいぶん下回っており、半分もありません。ですから、広岛大学には留学生を集める计画がぜひ必要です。
 

そういった统计とは别に、日本は本来、优れた教育を求める外国人学生にとってもっと魅力的な国であると、私は心から思います。やはり日本が生产するものは、农业であろうと工业であろうと、サービスであろうと、世界で最高レベルであると认められています。日本の技量は他のほとんどの国よりも优れています。たとえ外国のブランドを生产している场合でもそうです。それらはすべて、优れた教育の产物であります。
 

一つ例をあげて考えましょう。クリエイティブ产业についてです。クリエイティブ产业に関わる国内の生产高の総额は、64兆4千亿円です。この产业の雇用规模は、约590万人と推定されており、共に自动车产业を追い越しています。クリエイティブ产业は、その规模だけではなく、経済全体に与える波及効果が非常に大きいです。例えば、ポケモンは、もともとはビデオゲームのソフトウェアとしてスタートしましたが、アニメ、映画、関连商品といった大きなメディアミックスへと発展しました。その人気は日本国内にとどまらず、外国でも絶大です。その他にも多くのゲームやアニメのキャラクターが日本から発信されており、世界中で人気を得ています。
 

日本のクリエイティブ产业の优秀さを、大学で学ぶ人材に结び付けるべきだと思います。日本は科学、农业、技术における优秀さだけではなく、クリエイティブ产业を発展させてきた経験を留学生に伝えてください。日本には、留学生に教えることができる、本当に多くの优れたものがあるのです。

アドバイスとして:

  • 言语の问题
    – 国際的な学問の言語である英語に適応する必要がある。
  • 教科书と教育
    – 英語で書かれた教科書あるいは元の言語の教科書を増やす。
  • 教员
    – 外国で先進教育を受けたことのある講師の数を増やす、あるいは国際的な講師の雇用を増やす。
  • カリキュラム
    – 大学は独自性を失うことなく、世界の一流大学のカリキュラムに合わせる必要がある。
  • 连携
    – 日本の大学は他の大学と连携をはかることができる。日本の学生は日本の大学のプログラムに登録し、受け入れ先の大学の学位や提携校の課程の修了証明を得て卒業することができる。
  • 入学试験
    – 日本の大学で学ぼうとする場合、学生は入学试験を受けなければならない。英国ではそういった試験はない。
    – 英国の制度では、学生の受け入れは大学院生に対するGPA(成績評価点平均)に基づいて決定される。シンガポールとマレーシアの大学では、学生の受け入れにこの方式を採用した。
    – 日本はトップクラスの大学が行っている、外国人留学生の受け入れ手順の煩雑さを減らした方が良い。
  • イノベーションとは、新しいアイデア、発见、発明を応用することに関するものである。
    – イノベーションの基礎は、優れたアイデアを着実に供給することである。
    – 工夫力と創造性は、これらのアイデアを支える基礎的な研究と共に、大学と企業、政府、およびNGOの間でアイデアを絶えず交換することと合わせて、イノベーション成功に至る秘訣である。

结论

総じて、大学は市场とグローバル化という基础をなす2つの力に直面しています。公的资金の果たす役割が低下している中、市场の力は世界にある多くの教育制度に対し、市场を取り囲むようにと働きかけています。日本も例外ではなく、この倾向にあります。诸大学が様々なルートで明白につながっており、価値を共有しているという意味において、グローバル化は学问の世界にも影响を与えています。米国や英国、カナダ、オーストラリアといった英语を话す国々の大学だけではなく、中国のような英语を话さない国の大学でさえ、この倾向から大変恩恵を受けています。ですから、日本もこの倾向に适応する必要があります。
 

结论として、日本の教育のグローバル化の動きは、現在の制度がうまく行っているという前提からスタートすれば、よりうまくいくかもしれません。しかし同時に、一部の選ばれた学生に対しては、学問の世界および国における現在の教育機関とは別に、グローバル化プログラムを実行する必要があります。例えば、 日本はそういった産業に関連する様々な領域で課程や学位プログラムを提供することによって、美術デザインに関連する優秀な先進技術をもっと留学生に開示すべきです。
 

最后に、もう一度申し上げたいと思います。日本は机械工学や物理学といった従来の科目についてだけではなく、工业芸术、社会科学、人文科学といった科目をも网罗する広范な教育课程を提供すべきだと思います。専门能力には一定の技术的なノウハウが确かに必要ではあるのですが、限られた特定の能力だけを持つ一人の学生にとって、世界はあまりにも复雑になってしまいました。

 

2015年9月2日
ギナンジャール?カルタサスミタ


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