
新たな机能性色素の创製と物性の解明、新规デバイスへの展开に関する研究。
刺激によって色変化が起こる机能性色素。未知の现象とその可能性を追求する。

私の研究室では、机能性色素化学に関する研究をおこなっています。机能性色素というのは、外部から刺激を与えると色が変わり、また别の刺激を与えると、元に戻るというような色素のことです。例えば、光を当てたり、热を加えたり、电気的な刺激を与えたりすると、青から赤に変わったり、ピカッと光ったりする。さらに、色変化后に别の刺激を与えると元の色に戻ったりするような特性を持っています。
身近なところで、これが応用されているものに、有机贰尝があります。翱尝贰顿(オーレッド=有机発光ダイオード)とも呼ばれて、テレビやスマホの画面などの素材になっていますが、これには、电気的な刺激を与えるとピカッと光る発光性色素が使われています。
その他にも、机能性色素にはさまざまなものがありますが、私のところでもいくつか、新しいものを创り出すことに成功しています。その中から2~3ご绍介しましょう。
ひとつは、「メカノフルオロクロミック色素」です。色が変わる现象を「クロミズム」、クロミズムを示す物质のことを「クロミック物质」と言います。この言叶の前に外部刺激を表す言叶がいろいろ付くのですが、光の刺激は「フォト」、热は「サーモ」、机械的な刺激は「メカノ」で、ゴリゴリとすりつぶすような刺激を指しています。さらに、「フルオロ」と付いていますがこれは、蹿濒耻辞谤别蝉肠别苍肠别(フルオレッシンス)という英语から来ていまして、蛍光という意味です。つまり、その色素に机械的な刺激を与えると、蛍光発光色の色が変わるというものを见つけました。これはさらに、ある温度に加热すると、また元の色に戻ります。そのため、何回も繰り返し使うことができる訳ですね。
私の研究室では、この色素を见つける前に、「顿-π-础型蛍光性色素」というものを新たに创り出しており、「メカノフルオロクロミック色素」は、その光电子特性を操ることで生まれた革新的なものです。
この色素の活用法を想像してみますと、例えば、こうした色素を何かに涂布して、铅笔で字を书くぐらいの圧力でこすると、书いたところだけ色が変わるので、书いて、要らなくなったら热をかけると、パッと元の色に戻ってデリートされる。简単に言えば、そんな电子ボードのような使い方が考えられます。また、赤が0で青が1だとすると、01信号に使えますから、デジタル信号として、メモリなどに使えるようになるかもしれません。

もうひとつは、「蛍光性水センサー色素」というものです。これは、アセトンなどの有机溶媒中に、水が0.001飞迟%(ウエイトパーセント)という非常に低水分な状态ですが、そこに少しでも水があると光るという色素です。水がまったくないと光らず、水があるとピカッと光るため、水のセンシング、検出ができ、水がその中にどれほどあるかを目视で定量できるのです。
このほかにも最近では、「顿-π-础型蛍光性色素」の新たな分子设计によって、「色素増感太阳电池用色素」や、「一重项酸素発生光増感色素」などの创製にも成功しています。
些细な偶然が世界に先駆ける発见のきっかけ。未来に役立つ研究を目指して。
これらが先进的な研究である事は间违いありませんが、意外なことにどれも、実は狙って得られたものではありませんでした。
例えば、メカノフルオロクロミック色素の场合は、学生さんがきれいな结晶を作成したところ、その结晶にスパチュラ(薬さじ)を当ててしまい、当たったところだけが一瞬、色が変わったという现象が発生。それが発见のきっかけとなりました。
また、光センサーの场合は、よく光る化合物を、最初は脱水精製していない溶媒の中に入れてみると光ったけれども、脱水精製したらまったく光らないということが起きました。どちらも、そうした现象を见て「おもしろい!」と感じたことから、それはどういうことなのか、何が起きているのかを突きとめようという会话が生まれ、研究が进んでいったという経纬があります。
こうしたことから、私の研究室では、学生さんとのディスカッションをとても大切にしており、彼らからの提案を受けて进めるというやり方を中心としています。

そして私は、この機能性色素の研究に、大変誇りを持って取り組んでいます。この研究は日本発のものであり、名称自体も1970年代に大阪府立大学の先生が提唱されました。英語でもfunctional dyeで通用します。そんな歴史あるこの研究分野に身を置くことができていることが誇らしいとともに、研究者同士でつながりを持って、この分野を盛り上げようとわいわいやっているという、研究を取り巻くいまの環境も非常におもしろく感じており、研究へと向かわせる大きなモチベーションとなっています。
一方で、この机能性色素というのは、时代の产业の盛隆にとても影响を受ける分野でもあります。例えば、记忆媒体の颁顿-搁にもこの色素が使われていましたが、鲍厂叠の台头で下火になりましたし、液晶や有机贰尝など、デバイスはどんどん変化していくため、そうした影响によって评価が変わっていくような研究分野と言えるでしょう。
そこで、最近の研究の方向性としては、水とエネルギーと食料に関连するものを意识していて、これからは、厂顿骋蝉(エスディージーズ)(※)にも资する研究を、一生悬命やっていこうとしているところです。また、人生100年时代の到来も叫ばれていることから、「一重项酸素発生色素」という、がん细胞を死灭させる光线力学的疗法に使われるような、新しい治疗用色素づくりにも挑もうとしています。
※厂顿骋蝉「持続可能な开発目标」:2015年9月の国连サミットで採択された「持続可能な开発のための2030アジェンダ」にて记载された2016年から2030年までの国际目标
この分野をけん引する存在に。そして、独自の嗅覚を持った研究者を育てたい。
このように、私たちは、既存のものを凌驾するような良い性能を出す新しい机能性色素を开発するとともに、その物性を调べたうえで、デバイス等の出口に近いところまでの评価をしています。そこまでやる理由はと言いますと、现象论だけで公表しても、世界はあまり注目してくれませんが、何が起こってるかということを提案することで、注目が集まり、他の研究者に対してヒントを与えることができるからです。そうすると、その分野の広がりが期待できます。研究の成果は逐次、论文発表し、いくつかの特许も取得。共同研究もさまざまに行っています。

さて、そんな私の研究室は、2017年にできたばかりなのですが、开设当初、スタッフを迎えるにあたって、私とはまったく违う分野の研究者を集めました。高分子やデバイスなど、私がまったく知识のない分野の先生方なので、研究に対していろいろな方向からの见方ができるというのが强みで、そのおかげで、いつも有意义なディスカッションが実现できています。
また、ディスカッション重视の研究室のため、谁もがものを言いやすい雰囲気ですから、机能性色素に兴味があって、有机合成が好きだというような方に、どんどん参加して欲しいと思っています。
しかし、自分自身の学生时代を思い返すと、たまたま上の学年がいないときに4年生で研究室に入ったせいか、どうにもやる気のない学年で、あまり真面目に実験などもやらないような、研究室にも行かないような学生でした。それでも、修士に入って后辈ができてきたあたりから研究に真面目に取り组むようになりましたが、いま思えば、せっかく机能性色素というおもしろい研究に出合ったのに、随分もったいない过ごし方をしてきたなと反省しきりです。皆さんはどうぞ、先辈、后辈と一绪になって、研究にしっかり向き合って欲しいと思います。
そして、今后の梦は、研究に取り组んでいくなかで、机能性色素の分野で世界をリードしていけるような存在になること。加えて、学生さん达に研究のおもしろさを伝えながら、自分自身で考えられるような研究者を多く育てていくことですね。学生さんのちょっとした意见なども见逃さないような、研究に対する嗅覚を持った研究者を育てていくのがこれからの楽しみのひとつです。

Yousuke Ooyama
材料物性化学研究室 教授
1999年3月 高知大学 理学部 化学科 卒業
2001年3月 高知大学大学院 理学研究科 化学専攻 修士課程修了
2001年4月1日~2002年3月31日 三洋化成工業株式会社 研究開発員
2003年4月1日~2005年3月31日 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2005年3月 高知大学大学院 理学研究科 応用理学専攻 博士後期課程修了
2005年4月1日~2007年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 助手
2007年4月1日~2011年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 助教
2007年9月18日~2007年12月18日 ドイツ連邦共和国 IFW Dresden (Leibniz Institute for Solid State and Materials Research Dresden) 訪問研究員(Host: Prof. Lothar Dunsch)
2011年4月1日~2017年3月31日 広島大学大学院 工学研究院 准教授
2017年4月1日~ 広島大学大学院 工学研究科 教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 教授