広岛大学大学院医系科学研究科
口腔炎症制御学共同研究讲座
共同研究讲座助教: 芝 典江
罢别濒:082-257-5632
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本研究成果のポイント
- 口内炎に対するスギナエキスの创伤治癒および镇痛効果を発见しました。
- スギナエキスが痛みを抑制するメカニズムの一端を解明しました。
概要
口内炎(※1)は、再発性アフタ性口内炎(搁础厂、※2)をはじめとして多くの人が悩まされている一般的な口腔疾患です。激しい痛みを伴うことが多く、食事が困难になるなど、日常生活の质(蚕翱尝)を大きく低下させます。これまでの治疗法にはステロイド软膏などが使われてきましたが、长期间または高频度で涂布し続ける场合は、粘膜の萎缩や免疫低下といった副作用のリスクがあるため、より安全で効果的な治疗法の开発が求められていました。
広岛大学大学院医系科学研究科口腔炎症制御学共同研究讲座(※3)芝 典江 共同研究講座助教、宮内 睦美 名誉教授、太田 耕司 教授を中心とした研究チームは、口内炎に対するスギナエキスの創傷治癒および鎮痛効果を明らかにしました。また、スギナエキスによる鎮痛作用のメカニズムの一端を解明しました。
今后、口内炎やその痛みで悩む多くの人々に向けた、スギナエキスを応用した治疗法や予防法の开発により、人々の蚕翱尝向上に大きく贡献できると期待されます。
本研究成果は、2024年11月21日「PLOS One」に掲載されました。
なお、本件は论文掲载にあたり、広岛大学から掲载料の助成を受けています。
●掲載雑誌:PLOS One
●鲍搁尝:丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.1371/箩辞耻谤苍补濒.辫辞苍别.0313747
●論文題目:Antinociceptive effect of Equisetum arvense extract on the stomatitis hamster model
●著者:Fumie Shiba(責任著者), Shiiko Maekawara, Atsuko Inoue, Koji Ohta, Mutsumi Miyauchi(責任著者)
●doi: 10.1371/journal.pone.0313747
背景
口内炎は、再発性アフタ性口内炎(搁础厂)をはじめとして多くの人が悩まされている一般的な口腔疾患です。激しい痛みを伴うことが多く、食事が困难になるなど、日常生活の质(蚕翱尝)を大きく低下させます。これまでの治疗法にはステロイド软膏などが使われてきましたが、口内炎の再発を繰り返す患者や长期にわたりステロイドを使用する场合において、粘膜の萎缩や免疫低下を招くなどの副作用のリスクなどがあるため、より安全で効果的な治疗法の开発が求められていました。
私たちは、生薬「问荆(もんけい)」として知られるスギナの抽出物(スギナエキス)に着目し、口内炎によって起こる炎症や疼痛に及ぼすスギナエキスの作用について検証しました。
研究成果の内容
本研究では、ハムスターの頬袋に口内炎を人工的に引き起こし、スギナエキスを涂布する実験を行いました。また、ラット由来の脊椎后根神経节细胞(※4)を用いた痛覚伝达因子に対するスギナエキスの影响についても検讨しました。その结果、以下の効果が确认されました。
创伤治癒の促进: スギナエキスを涂布したハムスターでは、口内炎の溃疡サイズが有意に缩小し、组织学的に治癒が促进されることを认めました。
镇痛効果: 口内炎を诱导したハムスターでは、痛みで食事が困难になり、体重が减少しましたが、スギナエキスを涂布したハムスターは摂食行动が改善され体重减少が抑えられました。このことから、スギナエキスには镇痛効果があることが示唆されました。
疼痛関连因子の発现抑制: 分子レベルでの解析の结果、スギナエキスは、疼痛発现に関连している「炎症性サイトカイン(罢狈贵-α、※5)」や「プロスタグランジン合成酵素(颁翱齿-2、※6)」、さらには「痛覚伝达物质(サブスタンス笔、※7)」の放出を抑制することが分かりました(図)。
これらの结果から、スギナエキスは、创伤治癒を促すだけでなく、痛みの根本原因となる复数の疼痛関连因子を同时に抑えることで、口内炎の痛みを効果的に軽减する可能性が示唆されました。

【図】スギナエキスによる疼痛抑制メカニズム
(础)サブスタンス笔の放出により罢狈贵-αや颁翱齿-2の発现が増强されることで、口内炎による疼痛が引き起こる。(叠)スギナエキス投与によりサブスタンス笔の放出が大きく抑制されるとともに罢狈贵-αや颁翱齿-2の発现も抑制されることで、最终的に口内炎による疼痛が軽减される。
今后の展开
今回の研究成果は、口内炎やその痛みで悩む多くの人々に向けた、新しい口腔ケア製品の开発に繋がるものと期待されます。スギナエキスを配合したオーラルケア製品などの製品が実用化されれば、口内炎患者の蚕翱尝向上に大きく贡献できると考えられます。さらに、生薬であるスギナエキスを用いることで副作用の悬念が少ない安全な口内炎治疗法の开発につながる可能性があります。
今后、スギナエキスのより详细な作用机序(体内でどのように働き、组织の修復などに影响を与える仕组み)や有効成分の特定、さらにはヒトを対象とした口内炎への効果の検証を进めていく予定です。
用语解説
(※1)口内炎:
唇や頬の内侧、舌、歯茎など口の中の粘膜に生じ、水疱やただれ、溃疡などの粘膜病変を生じるものの総称です。ストレスや栄养不足などによる免疫力低下、口の中を噛んでしまうなどの物理的刺激、ウイルスの感染などが原因となって、口内炎ができると考えられています。
(※2)再発性アフタ性口内炎:
再発を繰り返す口腔粘膜の炎症で、痛みを伴う小さな溃疡が口の中にできる病気です。直径数ミリの大きさの円形や楕円形の浅い特徴的な溃疡(アフタ)を形成します。溃疡表面は黄白色の偽膜で覆われ、周囲は赤色を呈しています。唇の粘膜や舌、頬の粘膜によく発生します。
(※3)口腔炎症制御学共同研究讲座:
2022年4月1日に新设された広岛大学とアース製薬株式会社との共同研究讲座で、広岛大学における歯学分野初となる共同研究讲座。产学が连携し、口腔炎症性疾患に関する基础研究と、その予防法?治疗法の开発に向けた応用研究の加速を目指しています。
(※4)脊椎后根神経节细胞:
末梢からの感覚情报を脊髄に伝达する役割を担っている细胞で、痛み、触覚、温度感覚など、様々な感覚を脳に伝える重要な役割を果たしています。
(※5)罢狈贵-α:
Tumor necrosis factor-αの略称で、代表的な炎症性サイトカインの一種です。免疫細胞を活性化し、感染症に対する防御に重要なたんぱく質ですが、過剰に存在すると炎症や痛みを引き起こします。
(※6)颁翱齿-2:
颁测肠濒辞辞虫测驳别苍补蝉别-2の略称で、炎症部位においてサイトカインなどの刺激によって诱导される物质で、炎症や疼痛に関与するプロスタグランジンの合成酵素です。
(※7)サブスタンス笔:
痛覚の神経伝达物质として知られており、炎症性サイトカインやヒスタミンの放出を促进して炎症を引き起こします。またストレスや呕吐反射などいろいろな生理机能に関わっています。