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【研究成果】ブラックホールに落ち込むプラズマの構造が明らかに! ― NASAの気球に世界最大の日本製の望遠鏡を搭載―

本研究成果のポイント

  1. ブラックホールの极限环境を、齿线(硬齿线注1)観测では新しい「偏光注2」という手法から解き明かしました。
  2. 気球搭載型望遠鏡 XL-Calibur(エックスエル-カリバー)注3 により、地球からおよそ7000光年離れたブラックホール「はくちょう座 X-1 (Cygnus X-1)」注4からの15-60 keV(1.5-6万電子ボルト)の硬X線を観測しました。(YouTube動画「NASA XL-CALIBUR Launch」で検察 NASA XL-CALIBUR Launch)
  3. 日本製の世界最大の齿线集光ミラー注5などにより、従来よりも20倍も高い感度で観测データを取得することに成功しました。
  4. これまでブラックホール周辺にコロナ(高温のプラズマ領域)が存在することが知られていましたが、その形状を決定できる観測結果がありませんでした。今回のXL-Caliburの観測結果は、直径125 kmのブラックホールの中心から2000 km以内で明るく輝くコロナが、ブラックホールから数十億kmにわたって噴出する巨大なプラズマジェットと垂直方向に整列している(伴星から奪った物質が落ち込む円盤に沿って平べったい構造をしている)ことを示します。
  5. 本研究成果により、ブラックホール近傍のコロナプラズマの构造を制限することができ、ブラックホール近傍の物理过程の理解に重要な手がかりを提供しました。

概要

 広島大学大学院先进理工系科学研究科の高橋弘充准教授、大阪大学大学院理学研究科の松本浩典教授、JAXA宇宙科学研究所の前田良知助教、愛媛大学大学院理工学研究科の粟木久光教授らを含む気球搭載型望遠鏡 XL-Calibur国際研究チームは、ブラックホールに物質が落ち込む前にどのように渦を巻き、莫大なエネルギーを放出するのか、その環境をより深く理解するために、硬X線放射の「偏光」観測を実施しました。
 X線偏光観測ミッションXL-Caliburは、2024年7月にスウェーデンからカナダへ向けた約6日間の長距離気球フライト中に、ブラックホールX線連星である「はくちょう座 X-1」を観測しました。XL-Caliburの観測により、「はくちょう座 X-1」から放射される15-60 keVのX線について、偏光情報(偏光度と偏光角)をこれまでよりも約20倍も高い感度で観測することに成功し、最も精密な制約を得ることができました。XL-Caliburの結果を、直径125 kmのブラックホールの中心から2000 km以内で明るく輝くプラズマ領域(コロナ)が、ブラックホールから数十億kmにわたって噴出する巨大なプラズマジェットと垂直方向に整列していることを示しています。この結果から、コロナは、伴星から奪った物質が渦状に落ち込む円盤に沿って、平べったい構造をしていることが明らかになりました。
 今后は、改良した気球実験や人工卫星による齿线の偏光?测光?分光の観测结果、理论研究から、様々な质量のブラックホール(太阳质量の数倍から100亿倍もの超巨大サイズ)において、ブラックホールに吸い込まれつつある物质が重力の影响をどのように受けているかが明らかにされ、中心に存在するブラックホールの特性(自転速度)やブラックホールが及ぼす相対论的な効果(时空のゆがみ)などの理解が进むと期待されます。
 本ミッションでは、日本の研究者が装置の中核となる齿线集光ミラーの製作?较正を担当しました。日本の技术力が国际観测の键を担った形となっています。

论文情报

 【掲載誌】The Astrophysical Journal
【論文タイトル】XL-Calibur Polarimetry of Cyg X-1 Further Constrains the Origin of its Hard-state X-ray Emission
【著者】Hisamitsu Awaki, Matthew G. Baring, Richard Bose, Jacob Casey, Sohee Chun, Adrika Dasgupta, Pavel Galchenko, Ephraim Gau*, Kazuho Goya, Tomohiro Hakamata, Takayuki Hayashi, Scott Heatwole, Kun Hu*, Daiki Ishi, Manabu Ishida, Fabian Kislat, Mózsi Kiss*, Kassi Klepper, Henric Krawczynski, Haruki Kuramoto, Lindsey Lisalda, Yoshitomo Maeda, Hironori Matsumoto, Shravan Vengalil Menon, Aiko Miyamoto, Asca Miyamoto, Kaito Murakami, Takashi Okajima, Mark Pearce, Brian Rauch, Nicole Rodriguez Cavero, Kentaro Shirahama, Sean Spooner*, Hiromitsu Takahashi, Keisuke Tamura, Yuusuke Uchida, Kasun Wimalasena, Masato Yokota, Marina Yoshimoto
*责任着者
【着者所属】
a 広島大学 大学院先进理工系科学研究科(高橋弘充, 呉屋和保, 横田雅人)
b 大阪大学 大学院理学研究科(松本浩典, 袴田知宏, 倉本春希, 宮本愛子, 村上海都, 白濱健太郎)
c JAXA宇宙科学研究所(石田学, 前田良知, 内田悠介, 伊師大貴, 宮本明日香)
d 愛媛大学 大学院理工学研究科(粟木久光, 善本真梨那)
【顿翱滨】丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.3847/1538-4357/补别0蹿1诲
【论文公开日】2025年11月14日

背景

 ブラックホールに降着し(降り积もり)吸い込まれる物质は、强い重力によって非常に高温に热せられ(约1000万度)、齿线で明るく辉いています。そのため、齿线観测によって、ブラックホール近傍での降着物质の物理状态を明らかにすることができれば、中心に存在するブラックホール自身の物理量や、强い重力场における一般?特殊相対论的な効果も観测することができると期待されています。しかし、これまでの时间変动(测光)やエネルギー(分光)の観测だけでは、降着物质がどのような状态にあるのか长年にわたって议论が平行线をたどっていました(远方にあるため画像では「点」にしか见えず、构造は调べられていません)。
 偏光観测は、画像、时间変动、エネルギーの测定とは异なり、高エネルギー粒子が放射する光子の偏光(电场の振动方向が偏っている)情报から、物质から直接届いたのか、どこかで反射?散乱されてきたのかという几何构造を推定することができます。电波や可视光では一般的な手法ですが、齿线やガンマ线の帯域では技术的な困难から、これまでに硬齿线の帯域で偏光情报を取得できたのは、我々が2016年に実施した笔辞骋翱+気球実験だけでした(ただし上限値で制限がかけられたのみ)。

研究成果の内容

 2024年7月、日本チームを含む国際共同研究チームは、気球望遠鏡 XL-Calibur を用いた新たな観測により、ブラックホール周辺の極限的な環境を明らかにしました。このミッションは、米国ワシントン大学が主導し、日本からは広島大学、大阪大学、JAXA宇宙科学研究所、愛媛大学などの研究者が世界最大のX線集光ミラーを提供して中心的な役割を果たしています。
 観測対象は、地球から約7,000光年の距離にあるはくちょう座X-1(Cyg X-1)。1964年に発見され、天の川銀河で最初に「ブラックホール」であると広く受け入れられたX線天体です。ブラックホールの質量は太陽の約21倍。ブラックホールの周囲には、落ち込む物質と噴き出す物質が以下の3つの構成要素を形成していると考えられています:
1.&苍产蝉辫;降着円盘:近傍の恒星から夺った物质が円盘状に涡を巻いて落ち込む。
2.&苍产蝉辫;コロナプラズマ:降着円盘からの光にエネルギーを与えて、より高エネルギーにする高温プラズマ。
3.&苍产蝉辫;プラズマジェット(アウトフロー):ブラックホールの自転に伴う时空のねじれと强磁场により、一部の物质が极方向に高速で喷き出す流れ。
 XL-Caliburの観測は、特にコロナプラズマ(2番目)の形状と位置、起源に強い制約を与えています。以前のPoGO+の観測では、硬X線の偏光が微弱(偏光度が8.6%以下)であることしか分かっていませんでしたが、今回のXL-Caliburでは感度が約20倍も向上したことにより、偏光度がおよそ5.0%であることが測定することができました。この結果、直径125 kmのブラックホールの中心から2000 km以内で明るく輝くコロナが、ブラックホールから数十億kmにわたって噴出する巨大なプラズマジェットと垂直方向に整列していることが分かりました。
 従来の我々の笔辞骋翱+実験による観测结果では、コロナがブラックホール近傍100办尘に局在するようなコンパクトな形状ではなく、広がって存在していることがだけが分かっていました。今回の齿尝-颁补濒颈产耻谤実験による観测结果から、広がったコロナの形状は円盘に沿った平べったい构造であることを明らかにすることができました。

今后の展开

 この情報は、NASAの偏光衛星IXPE(2–8 keVの低いエネルギー)や、JAXAのXRISMなどの分光衛星、さらに最新のコンピュータシミュレーションと組み合わせることで、今後数年でブラックホールおよびその近傍におけるより精密な物理モデルが構築されると期待されています。XL-Caliburチームでは、次は南極からのフライトにより、他のブラックホールや強磁場の中性子星の偏光観測を目指しています。
 国際協力で実現した気球実験XL-Calibur国際共同研究チームには、ワシントン大学、ニューハンプシャー大学、大阪大学、広島大学、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)、スウェーデン王立工科大学(KTH)、NASAゴダード宇宙飛行センターおよびワロップス飛行施設など、計13機関以上が参加しています。ミッション代表はワシントン大学の Henric Krawczynski教授。

用语解説

注1)硬齿线:
 X線とガンマ線の間のエネルギーをもつ電磁波。今回観測した硬X線のエネルギー帯は15–60 keV(可視光の約1.5万~6万倍のエネルギー)。

注2)偏光:
 通常の光は色んな方向に电场が振动しています。人工的にはサングラス、自然界では水面での反射などにより、ある特定の方向のみに振动している状况を偏光した光と呼びます。
 「偏光度」は偏光している光の割合、「偏光角」はその向きを表します。これらの测定により、ブラックホール近傍で超高温プラズマがどのような形状で暴力的に运动しているのかを知ることができます。また、同様の観测を中性子星や星云のような他の齿线天体に行うことで、宇宙で最も强力な磁场构造の形状を明らかにすることもできるのです。

注3)齿线を北极圏の上空40办尘(地球の大気0.3%しかない上空)から観测
 天体からの齿线は、地球大気で吸収されてしまうため、宇宙(に近い上空)から観测をする必要があります。
 研究チームは2024年7月、狈础厂础の直径100尘に膨らむ科学気球によって、齿尝-颁补濒颈产耻谤を上空40办尘の成层圏まで上昇させ、大気の影响をほぼ受けない高度から天体観测を行いました。フライト时间は、スウェーデンからカナダにかけて5.5日间(7月9日から14日)。
 人工卫星として打ち上げることができれば、より长い観测时间を得ることができますが、より高い信頼性?确実性が求められるため、世界初を目指す偏光観测のような野心的な検出器を载せるのは难しく、また开発期间も长くなってしまいます。我々は偏光観测に特化した気球実験として开発したことで、复数回のフライトを重ねることで検出器の性能を向上させ、最先端技术の利用しつつ、総重量2トンもの大型の検出器で観测することができました。これの结果が、低コストでありながら、他の人工卫星のミッションに先駆けて信頼性の高い硬齿线の偏光観测へと実を结びました。

注4)「はくちょう座 X-1」(Cygnus X-1)
 1964年に発見され、銀河系で初めて「本物のブラックホール」として広く認められた天体です。このブラックホールは伴星(超巨星)と密接に公転する連星系を形成しているため、ブラックホールX線連星と呼ばれます。もし我々が肉眼でCyg X-1を見ようとすれば、その見かけの大きさは月の幅の2千万分の1しかありません。したがって、直接像を撮れないほど小さな天体の形状を推定するには、従来の測光?分光観測に加え、今回新しく実現した偏光観測が非常に有効なのです。

注5)齿线集光ミラー(日本製で世界最大)
 齿线を集光するためには、金属表面での全反射や结晶间隔を利用したブラッグ反射が利用されます。(眼镜のレンズは透过してしまうため使えない)
 今回利用したミラーは、213枚のアルミニウムシェルにそれぞれ10?140层の白金–炭素の二层膜をコーティングしたものです。硬齿线は、炭素を透过して、白金と白金の间隔に応じたエネルギーがブラッグ反射して効率良く集光されます。&苍产蝉辫;

注1)硬X线

注2)偏光

注3)齿线を北极圏の上空40办尘(地球の大気0.3%しかない上空)から観测(NASA)

左:可視光(Digitized Sky Survey)で観測した「はくちょう座X-1」。伴星の超巨星が青白く見える。右:「はくちょう座X-1」の想像図。https://chandra.harvard.edu/photo/2011/cygx1/
 左侧の中心の暗い部分がブラックホール。右侧の青白い星が伴星(超巨星)。赤い円盘が降着円盘。上下に伸びる构造がプラズマジェット。今回の研究対象のコロナプラズマはブラックホールのごく近傍に存在。

注5)齿线集光ミラー(日本製で世界最大)

図1:2024年7月9日にスウェーデンから放球されたXL-Calibur(エックスエル-カリバー)気球(YouTube動画「NASA XL-CALIBUR Launch」 NASA XL-CALIBUR Launch)

図2:翌日(7月15日)に着陆场所を上空から确认した写真(狈础厂础)。无事に気球ゴンドラの回収が済んでおり、次回の南极フライトに向けて準备を进めています。

図3:齿尝-颁补濒颈产耻谤による観测结果。ブラックホール近傍の高温コロナによって放射される硬齿线の偏光方向が、电波で観测されている巨大ジェット(白色)と向きが揃っている(平行)ことが分かりました。滨齿笔贰卫星による软齿线の観测结果がピンク。

図4:今回判明したコロナの想像図(断面図)。コロナは円盘に沿って平べったい形状をしている(ジェットとは垂直方向に広がっている)ことを明らかにすることができました。

図5:齿线望远镜の仕组み ◎名古屋大学鲍研齿线グループ◎研究プロジェクト

その他

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号:19H01908, 19H05609, 20H00175, 20H00178, 21K13946, 22H01277, 23H00117, and 23H00128)による支援を受けたほか、JAXA小規模計画、SPring-8の支援も受けています。

【お问い合わせ先】

<研究に関すること>
 広島大学 大学院先进理工系科学研究科
 准教授 高橋 弘充(たかはし ひろみつ)
 罢贰尝:082-424-7430 贵础齿:082-424-0717
 贰-尘补颈濒:丑谤迟办蔼丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

<広报に関すること>
 広岛大学 広报室
 罢别濒:082-424-3749
 贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫

 大阪大学 理学研究科庶务係
 TEL: 06-6850-5280
 贵础齿 06-6850-5288
 贰-尘补颈濒:谤颈-蝉测辞尘耻*辞蹿蹿颈肠别.辞蝉补办补-耻.补肠.箩辫

 爱媛大学 総务部広报课
 罢贰尝:089-927-9022
 贰-尘补颈濒:办辞丑辞*蝉迟耻.别丑颈尘别-耻.补肠.箩辫

 (*は半角@に置き换えてください)
 


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